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一章:SとK
時に約束は呪縛のようで 07
しおりを挟むヤメロ、と理性は止めるのに、もう口から飛び出す言葉を遮る術を、ボクは持っていなかった。
クロの顔が蒼くなっていくのが見えても、止まらない。
震えているクロを押すと、意図も簡単に上半身はベッドに埋もれる。
「思い出したんなら、このまま奪ってみようか?」
「さ、さん、さ、サン、くん! な、なに、なな、なに、言ってる、の?」
両腕で顔を挟むようにしてベッドに手を着けば、ぎしりと軋む音がした。
クロはがたがたと震えて上手く喋れていない。
顔を近付けると、クロの歯がカチカチと鳴っているのも聞こえた。
ふるふると震動している唇に、自分の口が付く寸前で、ボクは我に返った。
クロから体を離し、頭を抱えてへなへなと崩れ落ちる。
ベッドの側面に背中を預け、膝を立てて床に座り込んでいた。
「ごめん、クロ君。今のは忘れてくれ。どうかしていたんだ。君は友人で、だから、抱きたいとも殺したいとも、思ったりしないよ。怖がらせて、悪かったね」
はあああ、と大きく息を吐き出してから、優しく言いやる。
暫く沈黙が走ったが、うん、とか細い声が返ってきた。
「ぼ、僕が、変なこと聞いたから。ごめんね。気にしてないから、大丈夫だよ」
努めて明るくするクロに胸が痛んだが、今は彼に甘えることにする。
よっ、と掛け声と共に立ち上がり、膝や尻を払い、クロと向き合う。
今にも泣き出してしまいそうな彼の表情に、ちくりちくりと良心は悲鳴を上げる。
「帰ろうか。歩けるかい?」
「あ、うん。歩ける」
ボクは目線を下げてクロを見ないように声を掛けた。
彼はゆっくりとベッドから降りて頷く。
「腕、掴んで良いからね」
「あり、がと」
片腕をクロの前に差し出せば、恐る恐る彼の手が伸びてきた。
白衣を掴んだのを確認して歩き出す。
「今日は、出前でも取ろうか。作れないだろ、ご飯?」
「うん、サン君は、何が食べたい?」
「クロ君は?」
ギクシャクしながらも、いつものように会話を重ねていく。
恐らくは、こうやって日常に戻っていくのだろう。
それでも、ボクは知っていた。
一度関係に変化があった場合、全く同じ関係には戻れないことを。
ボク達は、知っていても何も言わずに元の生活を演じていくことを選んだのだ。
ボクとクロは、医者と患者、幼馴染み。
それ以上もそれ以下もない。
これからも変わらずに続いていく。
心の奥底に隠した熱情を、引っ張り出すのが怖い。
ボク達は逃げるようにして、元通りを探すのだった。
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