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一章:SとK
時に約束は呪縛のようで 04
しおりを挟む我慢出来なかった。
思わず継生を仰ぎ見る。
強い口調になってしまうのを止められなかった。
クロの額から頬へと手が移る。
堪らなかった。
あんな残酷な想い出など、消えてしまえば良いと、何度思っただろうか。
誰もがクロの気持ちなど考えないのだ。
憤りが身体中を巡って、震えが止まらない。
「……どうして、河東先生は、何でも解った風に言うんですか。僕だって、僕がっ、守りたかったのに……っ!」
だんっ、と継生の拳が、ベッドの縁を叩いた。
ボクは、ふん、と鼻で嗤う。
「君が彼を好きなのをどうこう言うつもりはない。ただね、僕達の日常を壊すのなら、ボクは君を許さないよ。クロ君を守るのは、ボクの役目なんだ。君になんか譲れない」
もうずっと、何十年もボクは彼の隣にいたのだ。
今更、他の誰かに代われる役目ではないのだと、思い知れば良い。
意地悪い自分が頭の中で囁く。
「とにかく、連れて帰るよ」
「今日は、入院した方が」
悔しそうな継生は、抵抗するように言う。
俯いていて表情は窺えなかったが、肩と腕と震えているようだった。
「薬漬けにしたくない。今後、精神科での治療は必要ないから。睡眠科で診るよ」
有無を言わせずに告げて、出て行ってくれと腕を動かす。
気付けば一緒に入ってきた看護師はいなくなっていた。
気を使ったのか、仕事があったからか、理由は解らないが有り難かった。
只でさえ、ボクとクロの関係は、病院内で噂になっているのだから、これ以上は余計な噂になって欲しくはない。
継生は、それでもまだ何かを言おうとして口を開いた。
言葉は出てこない。
何度か瞬きを繰り返して、彼は立ち上がった。
「クロさんに会うことは、許して貰いたいです。精神科に寄越さないなんて言わないで下さい」
そう宣うと、後ろ髪を引かれるようにして部屋からいなくなった。
一気に力が抜ける。
ボクは継生が座っていた椅子に移り、腰を降ろした。
本当にクロは面倒ばかりを運んでくる男だと思う。
それでも憎めないのだから、嫌になるのだ。
「クロ君、いつまで寝てるつもりだい? 帰るよ」
ぺちぺち、と頬を叩けば、うっすらと目蓋が上がる。
何度か上下する目蓋は、状況を把握出来ていないことを伝えてきた。
「あ、サン、くん。ぼ、く……はっ! あぁあぁっ、なんで、いて、くれなかったの!? こわっ、かっ、た!」
突然のことに、ボクの頭は一瞬フリーズしてしまった。
起き上がったかと思えば、クロは自分からボクの胸にしがみついてきたのだ。
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