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一章:SとK
時に約束は呪縛のようで 01
しおりを挟む【時に約束は呪縛のようで】
精神科の看護師が、睡眠科の診察室に駆け込んで来たのは、午後の診察が終わる30分程前だった。
看護師の彼女は、今時珍しく黒い髪をショートで纏め、利発な雰囲気と清純なイメージを感じさせる。
常に落ち着いている彼女にしては珍しく、焦って来たのであろう、息を切らして診察室の扉を乱暴に開け放ったのである。
はあはあ、と肩を上下させているのを、睡眠科の看護師が驚いて見ていた。
患者も振り返り彼女を窺っている。
「かっ、河東、先生! たい、大変なんです!」
「何事だい? 診察中だよ。落ち着きたまえ」
「でも、川路さんが」
開け放った扉にしがみついて、彼女は縋るようにボクを見る。
肩を竦ませつつも、入るようにジェスチャーすれば、すいませんと頭を下げて彼女は入ってくる。
ばたん、と扉が閉まった。
川路さん、との言葉に眉を潜める。
今日は病院に用はない筈である。
だが、昨日の今日だ。
継生が動いたのだろうと見当を付けて、軽く息を吐き出す。
「何があったかは知らないけどね。川路さんなら大丈夫だよ。もう少しで診察も終わるから、君はそれまでに落ち着きなさい」
「でも、川路さん、飛び降りようとして、それでっ」
大体の事態は把握出来たように思う。
安心しろ、と看護師に微笑みを向けるも、彼女は相当ショックだったのだろう、震えながら首を何度も振り、最終的には俯いてしまった。
「それでも、大丈夫だとボクは信じているよ。精神科ならば鎮静剤でも打って大人しくさせている筈だ。とにかく、今は診察中だから、邪魔しないでくれたまえよ」
隣にいる睡眠科の看護師に、彼女に着いているよう頼み、ボクは患者に向き合った。
彼女は看護師に連れられて受付に繋がる扉に消えていった。
謝罪を入れて問診を再開させる。
この患者は、睡眠時無呼吸症候群に悩んでいた。
寝ている間に、何らかの理由により気道が塞がれ、一瞬呼吸が止まる症状である。
上手く睡眠を取れないため、疲労感や注意力が散漫になったりする。
一番厄介なのは、本人は寝ている間のことで、自覚が全くといって良い程にないことだ。
この病気の人間は、大抵がいびきをかく。
症状が出る時、いびきが止まり、また再開するので、家族の指摘が重要になってくるのだ。
病気の改善としては、気道を塞ぐ原因を追求し、その原因を取り除くこと。
肥満が原因の場合には、ダイエットの手伝いをすることもある。
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