59 / 97
一章:SとK
時に想い出は残酷で 09
しおりを挟む「やめたまえよ、クロ君。そんなことをしても、おばさんは戻らない」
「止めないでよっ! 母さんがいないなら、僕は生きていけない! 何のために生きろって言うの!?」
けれど、サンの制止が現実に引き戻す。
肩を掴まれ、目の前に見えたサンは、涙を堪えるようにして唇を噛んでいた。
ふい、と目を逸らされる。
「生きる意味は、君が見付けていくものだろう? 君が死んだら、君を庇ったおばさんは報われないよ」
「一緒に死ねば良かったんだよっ! 僕なんか、死ねば良かった……んだっ! うあああぁあぁああぁ!」
力の限りサンを振りほどき、ベッドから降りた。
痛みで真っ直ぐには歩けず、ヨタヨタと窓に近寄る。
窓から見える景色は、高い場所にあり、下はコンクリートだった。
此処から飛べば死ねる、と頭が思考して、窓に手を掛けた。
背中におぶさる重さで、僕の動きは止まっていた。
後ろからサンに抱きすくめられている。
身長差など殆んどない僕とサンだ。
耳元でサンの息遣いを感じた。
「きっ、君まで……いなくなったら、ボクは、どうしたら良い? お願いだから、死ぬだなんて言わないでくれ。ボクのために生きてよ。ボクには、クロ君が必要なんだ。ボクが、絶対に守るから。お願いだよ」
肩に熱い水滴が落ちる。
僕を抱く腕には、ぎゅうぎゅう、と力が籠められる。
すう、と頭が冷めた。
サンが泣いて縋っているのだ。
辛いのは彼も一緒なのだと気付いた。
サンの腕の中で、こくんと頷く。
彼のために生きようと思えた。
「ま、守ってくれる、って約束だからね?」
「死なない、って約束出来る?」
「サン君がいてくれるなら」
「ボクは、君の前からいなくなったりしないよ、絶対に。約束だ。ボクは君を守る。君は死なない」
「う、うん。約束」
ぐるん、と体の向きを変えた。
サンと目を合わせると、手と手が触れ合った。
「指切りはしないよ。代わりに、手を繋ごう。離れないって印に」
サンの掌に、僕の手がおさめられて、目の高さまで持ち上げられる。
彼の頬はほんのり赤くて、目は合わないようにあらぬ方を向いていた。
くすり、と笑みが溢れる。
照れているサンは可愛らしいな、と思っていると、彼に睨まれた。
「君、その体で動いているけどね。まだ絶対安静なんだよ。自分で戻れるのかい?」
「え? うわあああ、いたいっ、いたいよ、サン君!」
「良かったね、生きている証だ」
ふん、と鼻で笑うサンに、なんだかんだとベッドまで運んで貰い、事なきを得たが、僕の体は相当痛め付けられていたようで、全治三ヶ月だった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
SLAVE 屋敷の奥で〜百回いくまで逃げられない〜🔞
阿沙🌷
BL
秘密の屋敷に囲われている青年の脱走未遂。捕縛された彼の仕置がはじまる。
成人向け、ヤマナシオチナシイミナシ。未成年者の閲覧は厳禁。痛い、救いない、地雷がいっぱい、何でも許せるかた向け。
地雷避けに↓
序編
Day1 束縛 ローター スパンキング イラマ 乳首責め 挿入 中出し
Day2 束縛 フェラ 挿入 連続
Day0 下剤 衆人 前封じ ローター 媚薬 見せしめ
Day3 手淫
Day4 拘束 複数 三所責め
Day5 拘束 焦らし 集団 水揚げ 媚薬 潮 イラマ ナカイキ
Day6 かくれんぼ 踏みつけ
・地下室編
1日目 限界寸 ローションガーゼ 前を責め
2日目 乳首を責め
3日目 前→乳首ときたら最後はアレ
・屋敷編
とりあえず屋敷ものっぽくそれなりにお仕事をしていただく回になる予定。(五月の更新再開後~更新終了は未定)
・藤滝過去編
・動乱編
構想だけ練っているため、完全に未定。
✿応援してくださったかた、ありがとうございます!ストレス発散にゴリゴリ書いている当BLですが(本当にBがLしているのか??)、しばらくの間、亀オブ亀更新【めっっっっっっっっちゃ更新が鈍くなります】すみません!また戻ってきますのでその時は藤滝とやっちんにかまってくださいまし~~!!(爆)
✿いつも閲覧ありがとうございます。いつの間にかお気に入りの数が増えていて驚きました。恐れ多いことにございます。読んで頂けて嬉しいです。
ぼちぼちまた、お気に入り80overの時のように、感謝SSを書けたらいいなぁと思います。いつになるかわかりませんが(苦笑)。
本編もなんとな~く、それとな~く、どういうふうに終わらせるのか、少しずつ考えています。にしても、その終着にたどり着くまでの過程で発生する濡れ場シーンのプレイをどうにか書ききらないとなぁ~と。いや、そこがメインなんですが。
屋敷編がひと段落ついたら、次は「わんこプレイ」させたいので(落ち着け)、がんばるぞ~!(とか言いつつ相変わらず鈍足更新になるのでそこのところは……)
✿番外編! お気に入り80overありがとう企画SS→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/955607132【完結】
✿その他の無理矢理系ハードエロシリーズ
・執事は淫らにため息をつく→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/473477124
・習作→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/711466966
表紙は装丁カフェさまから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる