SとKのEscape

Neu(ノイ)

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一章:SとK

時に想い出は残酷で 04

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それであっても、サンは僕の傍に居続けた。
それは、僕の母を守れなかったという罪悪感からなのかもしれない。
陰でサンを悪く言う人間もいた。
何の得があって僕を助けてくれるのか、僕には解らない。
サンの本心などこの世で一番難しい問題だろう。
それでも、どんな理由であっても、僕はサンの隣に居たいのだ。
喩え、母親の代わりだとしても構わない。
僕にはサンが必要なのだと、改めて解ってしまった。
継生と出掛けたことにより、サンの大きさを再度認識してしまったのだ。


 嗚呼――。
と言葉が出た。
まるで寄生虫のような自分が醜く思える。
独りでは生きることも儘ならない。
他の人間でも駄目。
サンでなくては生きていけないのだ。


 朝言われた台詞の真意が、何となくだが解った気がする。
もうサンの隣ででしか存在することも出来ないのに、僕はそれを否定したかったのだ。
遠慮という名で距離を置いて、独りでも生きて行かなくては、と自分を誤魔化した。
もう手遅れなのだという現実から目を逸らしていた。
否、解ってはいたのだ。
それでも、離れることが、サンのためになると、勝手に思い込んでいた。
彼の気持ちなど考える余裕も無かったのだ。


 サンのことだ。
僕が彼なしで生きていけないことなど、とっくに気付いているだろう。
きっと、距離を置かれることは屈辱だったに違いない。
僕一人ぐらい、平気で支えてしまうのがサンという男だ。
距離を置くという行為は、彼を信じていないに等しい行為だったのだ。


 やっと理解した。
甘えても良いのだ。
無条件に頼っても、彼は僕を見放さない。
サンは僕如きで潰れたりしない。
僕を守れるのは、昔から彼だけだった。
他人を信じるということは、自分の弱味でさえも見せることが出来るということなのだ。
食べ終えた食器を流しに運びながら、サンが帰ってきたらちゃんと話をしようと思うのだった。




 食事を済ませた後は、だらだらとだらけていた分を取り戻すように洗濯や掃除に励んだ。
ふと携帯を確認すると、メールが届いていることに気付く。
携帯を開いて見ると、差出人は継生からだった。
その内容に首を傾げつつも、のろのろと自室に向かう。


 検査をしたいから今から病院に来て欲しい、といった内容だ。
何の検査だろうかと疑問には感じるが、行かない訳にもいかないので、通院の支度を始める。
シャツとズボンに着替え、上着を羽織る。
肩掛けのカバンを掛けて、財布と鍵があるのを確認して、家を出た。
病院まで直通で行けるバス停まで小走りで向かうのだった。
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