52 / 97
一章:SとK
時に想い出は残酷で 02
しおりを挟むサンはと言えば、そんな僕を見て、フン、と鼻で笑うとベッドから降りてしまう。
きっと、この状況ですら、計算の上なのだろう。
「ボクはね、クロ君。怒っているんだ。前々から君は、ボクに遠慮ばかりしているけどね、全く以て気分が悪いんだよ。良いかい、ボクは自分で君の面倒を見ることを選んだんだ。君に気にされるようなことじゃない。解ったなら、今後一切遠慮はしないでくれたまえ。ボク達は、親友だろう?」
前髪を片手で掻き上げながら、サンの目が僕を見詰めてきた。
何か返そうとして、言葉が出て来ないことに気が付いた。
戸惑っている僕に、サンも感付いたのだろう。
ふっ、と息を抜くと、彼は布団の上で体を縮こませている僕の額を軽く小突いて背中を向けてしまう。
そのまま、背中は部屋から去って行った。
一気に息が漏れ出した。
あり得ないぐらいに、緊張したのだ。
寝返りを打ち、頭まで掛け布団を被る。
サンは距離感を測るのが、とても上手い。
それだから、今まで丁度良い場所にいてくれた。
心地好くて甘えていたことは確かだ。
僕達は、お互いに踏み込みもせず、かと言って離れもしないでやってきた。
その距離が、僕にとっても、サンにとっても、ベストだと思っていた。
だが、そう思っていたのは僕だけなのだろうか。
頭の中が悶々と回り始める。
ぐるぐるぐるぐる、した。
僕は、サンに迷惑を掛けているだけの男だ。
サンにしても、僕なんかただの厄介者だろう。
それだから、遠慮もしていたし、気も使っていた。
サンは其れが気に食わないと言う。
僕は、厄介者ではないのだろうか。
無条件に甘えてしまっても、許されるのだろうか。
彼は僕を見捨てないのだろうか。
嫌になったりしないのだろうか。
ぐるぐると回る思考の中で、胸がギュッと詰まった。
苦しい、痛い。
それなのに、熱く燻る何かが、心臓を押さえ付ける。
独りじゃないんだ、と。
甘えても良いんだ、と。
勝手に想いは込み上げてきて、僕を困らせるのだった。
結局、その日は昼近くまで布団の中でゴロゴロとしていた。
やはり、外に出掛けると疲れるようだ。
継生に気を使っていたせいもあるのだろう。
11時半になって、空腹感と共に起き出した。
キッチンに向かうと、冷蔵庫の中の余り物とお米で簡単に炒飯を作る。
テーブルに着いて、一人で黙々と食べた。
いつものことではある。
サンは仕事だ。
当然、昼食は家で一人食事を摂ることになる。
普段は平気の筈の行為が、何故だろうか、今日に限っては無性に心細かった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる