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一章:SとK
時に想い出は残酷で 01
しおりを挟む3.封じ込まれた記憶
【時に想い出は残酷で】
目を覚ますと、目の前にサンの顔があった。
どくん、と心臓が高鳴り、パニックに陥りそうになるが、辛うじて思い出す。
昨日、貧血を起こしたのだ。
倒れた後は、怖くて嫌な夢を見る。
内容は思い出せないが、本当に嫌な夢なのだ。
僕は一人でいられなくなる。
そんな時は、いつもサンが一緒にいてくれる。
それだから、隣で寝ているのだと、寝起きの頭が思い出してくれた。
深呼吸を一つして、眼前にあるサンの顔を眺める。
昔から見慣れたその顔は、起きている時よりも穏やかだ。
規則正しい寝息に合わせて肩が上下している。
何気無く、サンの頭に手を伸ばした。
茶色い髪に指を絡ませる。
いつもサンに助けられてばかりだ、と自己嫌悪に陥ろうとしていた僕の精神は、目覚ましの電子音で浮上した。
慌てて枕元の目覚まし時計の頭を叩くも、隣から、んっ、と呻く声が聞こえてくる。
うっすらと目蓋を上げるサンと目が合った。
「おはよう、クロ君。眠れたかい? ボクは体が痛いよ」
狭いシングルベッドに男二人だ。
僕達は二人共大柄ではないが、それでも狭い。
僕も体の節々が痛んだ。
寝起き特有の力の入らない微笑みを僕に向けて、サンは上体を起こす。
ベッドがぎしりと軋む音を立てた。
僕も慌てて起き上がろうとするも、サンの片手に止められてしまう。
怪訝な顔で彼を窺えば、サンは暢気に両腕を上げて伸びをしている。
相当体が痛むようだ。
「朝御飯は、適当に食べるから、君はもう少し寝ていたまえよ。昨日は疲れただろ?」
サンなりに気を使ってくれたのだろう。
僕は彼の優しさが好きだ。
昔からずっと、サンの優しさに救われてきた。
「あ、でも。大丈夫、だよ。ご飯ぐらいなら」
それでも、甘える訳にはいかないと、自分を諫め、腹筋に力を籠めた。
「……君は、本当に莫迦だなあ。こんな時ぐらい甘えたら良い。もう何年一緒にいると思っているんだい? そろそろ遠慮するのもやめたまえよ」
はあ、と大袈裟な溜め息を吐くと、サンは僕の肩を、ぐっと布団に押し付けた。
すぐ近くまで顔が近付いていた。
頭の中が真っ白になり掛けたが、それより少し早くサンが離れた。
有り得ないぐらい心臓が暴れている。
どっどっどっ、と早打ちする鼓動に呼吸が苦しくなった。
今まで、こんなに近くでサンを見たことがなかったからか、あまり強引に踏み込まれたことがなかったからか、訳の解らない動悸で体から力が抜けてしまう。
ベッドに体重全てを預け、何度も瞬きを繰り返した。
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