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一章:SとK
仲直り 12
しおりを挟む「奇遇だね。ボクもクロ君に言いたいことがあったんだ。取り敢えず、座ろうか」
なるべく優しく言い遣り、クロの椅子を引き、其処に腰掛けるよう誘導する。
クロは逆らうことなく椅子に座った。
其れを見届け、ボクは向かいの椅子に腰を落ち着かせる。
「ごめんよ、サン君。僕は、やっぱり君をあてにしていたんだ。何とかしてくれるんじゃないかって。君が怒るのも、当然だ」
「良いんだ。ボクも言い過ぎた。過ぎたことはお互いに忘れよう。今後は、もっとちゃんと話し合えば良い。ボクも、悪かったね。嫌な言い方をした」
ボク達は見詰め合い、そして、お互いに笑った。
喧嘩をするのは嫌な想いをしたが、仲直りをするのは心地好い。
クロの笑顔は珍しい。
ボクも滅多に笑わない。
心が軽くなるのを感じた。
先程まで、継生とのやり取りで、相当気を使っていたようだ。
ボクは昔から、クロの笑顔に救われてきた。
彼の笑顔を守るために、ボクは医者になったのだ。
安心したからか、眠気に襲われる。
「もう寝ないかい?」
「う、ん。……あの、何だか、よく覚えてはいないんだけどね。……怖くて嫌な夢を、見た気がして。その、一人は、嫌なんだ」
「ああ、いつもそうだったね。お風呂に入ってくるから、少し待ってて。一緒に寝よう」
そう、クロは記憶を捏造した後、決まって昔の夢を見るようで、一人で眠れなくなるのだ。
夢の内容までは覚えていないようだが、相当怯えているのは様子を見ていれば解る。
体が震えている。
顔色も悪い。
こういう時は、クロと寝るようにしていた。
クロも安心したのだろう、うんと頷いて先に部屋に戻って行った。
ボクはシャワーを浴びながら、帰り際の継生を思い出していた。
違和感を感じたような気がしたが、其れが何であるのかまでは解らない。
気のせいであることを願い、温かい水流に体を打たれる。
クロを待たせているので、頭と体を洗い、シャワーだけで風呂を出た。
バスタオルで水滴を拭い、寝間着に着替えてクロの部屋まで歩く。
引き戸をノックする。
中からクロの声がした。
どうぞ、と言われ、扉を開ける。
中に入れば、クロはベッドの上に座っていた。
「悪いね、待たせた。さて、寝ようか」
「うん。おやすみ」
ぎしり、と音を立てて、クロの隣に滑り込む。
狭いベッドだ。
クロの体がすぐ隣にある。
体温が伝わる程に密着していた。
クロの腕が、縋るようにしてボクの胸に伸ばされる。
ぎゅっ、と胸の辺りの布を掴み、クロは横向きで顔を此方に向けて眠るようにして目蓋を落とした。
ボクは自然とクロに向き合う形で寝ることになる。
苦笑を溢しつつ、寝息を立て始めたクロの髪を片手で撫でた。
そうして、ボクも目を閉ざすのだった。
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