SとKのEscape

Neu(ノイ)

文字の大きさ
上 下
46 / 97
一章:SとK

仲直り 08

しおりを挟む


涙が滲んだ目を見詰め返し、ボクはクロの肩に手を置いた。

「嫌いになんて、ならないよ。ボクは、何も出来ないけど、味方だ。約束するよ。嫌いになったりしないって」
「ほ、ほんとう? 僕、僕っ!」

クロの前頭部が胸にこつんと当たる。
手がお腹辺りでボクの服を掴んだ。
うぅ、と嗚咽が聞こえてくる。
細い体の震えは止まることはなく、ボクはどうするべきか悩む。
躊躇った結果、背中を撫で擦った。
ひっく、としゃっくりをあげながら、クロは泣いていた。
そんな彼のことを、ずっと撫でているしか出来ない自分に、ボクは腹が立った。
無力だということを思い知らされた日であった。




 回想に浸っていた意識は急に現実にと引き戻された。
扉がこんこん、とノックされたのだ。
時計を確認すれば、そう時間は経っていない。
だが、継生を待たせていることを再認識し、知らず知らず溜め息が溢れた。


 クロを起こさぬように扉に近付き引き戸を開ける。
情けない顔をした継生と対面する。

「あの」
「寝ているから、向こうで良いかい?」

何事か言おうとする継生を遮り、ボクは部屋を出ようとジェスチャーした。
継生の視線が、ちらりとクロに向かう。
彼は首肯して踵を返した。
後ろ手に扉を閉めた後で、継生の背中を見ながらダイニングのテーブルまで歩く。
先を歩く継生が立ち止まる。
いつもクロが座る椅子を勧めると、其処に腰を下ろした。
ボクも定位置に座る。
継生の真正面だ。

「あの、河東先生。クロさんは、大丈夫、ですか?」
「大丈夫だよ。別に病でもなんでもない。少し、クロ君の過去が重いだけでね」
「過去って、お母さんがお父さんに殺された件、ですか?」

真剣な顔で質問を続ける継生を凝視する。
ボクは言い淀むように口を開けたり閉じたりと繰り返した。
首を左右に振り、一度大きく息を吐き出す。
出来ることならば、あまり口にはしたくない件だ。

「まあ、それもあるね。他にも色々とある訳だ、彼の場合。……逆に、敷家先生は、何処まで聞いてるの? その事件のこと含めて、クロ君のこと、どれだけ知っている?」

やはり、具体的な言葉を口にすることは出来なかった。
はぐらかすように尋ねれば、継生の眉間には皺が刻まれた。
案の定というのか、クロとてあの件は口にもしたくないだろう、殆んど知らないのだと予想される。

「クロさん、そのことは喋りたくないみたいで。世間でニュースになったぐらいのことしか」

知りません、と小さな声が告げる。
ボクに対抗したいのだろうか、継生は悔しそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

松本先生のハードスパンキング パート5

バンビーノ
BL
「お尻、大丈夫?」  休み時間、きれいなノートをとっていた子が微笑みながら言いました。僕のお仕置きの噂は、休み時間に他のクラスにも伝わり、みんなに知れ渡りました。姉は、何をやっているのと呆れていました。姉も松本先生の教え子でしたが、叱られた記憶はないと言います。教室では素振り用の卓球ラケット、理科室では一メートル定規がお仕置きの定番グッズになりました。  でもいちばん強烈な思い出は、理科室の隣の準備室での平手打ちです。実験中、先生の注意をろくに聞いていなかった僕は、薬品でカーテンを焦がすちょっとしたぼや騒ぎを起こしてしまったのです。放課後、理科室の隣の小部屋に僕は呼びつけられました。そして金縛りにあっているような僕を、力ずくで先生は自分の膝の上に乗せました。体操着の短パンのお尻を上にして。ピシャッ、ピシャッ……。 「先生、ごめんなさい」  さすがに今度ばかりは謝るしかないと思いました。先生は無言でお尻の平手打ちを続けました。だんだんお尻が熱くしびれていきます。松本先生は僕にとって、もうかけがえのない存在でした。最も身近で、最高に容赦がなくて、僕のことを誰よりも気にかけてくれている。その先生の目の前に僕のお尻が。痛いけど、もう僕はお仕置きに酔っていました。 「先生はカーテンが焦げて怒ってるんじゃない。お前の体に燃え移ってたかもしれないんだぞ」  その夜は床に就いても松本先生の言葉が甦り、僕は自分のお尻に両手を当ててつぶやきました。 「先生の手のひらの跡、お尻にまだついてるかな。紅葉みたいに」  6月の修学旅行のとき、僕は足をくじいてその場にうずくまりました。その時近づいてきたのが松本先生でした。体格のいい松本先生は、軽々と僕をおぶって笑いながら言いました。 「お前はほんとに軽いなあ。ちゃんと食わないとダメだぞ」  つい先日さんざん平手打ちされた松本先生の大きな手のひらが、僕のお尻を包み込んでくれている。厚くて、ゴツゴツして、これが大人の男の人の手のひらなんだな。子供はこうやって大人に守られているんだな。宿について、僕はあのお仕置きをされたときにはいていた紺の体操着の短パンにはきかえました。あの時の白衣を着た松本先生が夢の中に出てくる気がしました。

おとなのための保育所

あーる
BL
逆トイレトレーニングをしながらそこの先生になるために学ぶところ。 見た目はおとな 排泄は赤ちゃん(お漏らししたら泣いちゃう)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

処理中です...