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一章:SとK
喧嘩 07
しおりを挟むいきなりクロの顔が、ばっと上がった。
涙を堪えるような顔で、珍しくも心情を吐露する。
隠し切れないのは仕方ない。
かと言って、今更優しくも出来ない。
「ボクは冷たい人間だよ。忘れたのかい? 仲良しゴッコは嫌いだって、始めに言っただろ。兎に角、遊びに行くなら行けば良い。お金も渡すよ。けど、ボクにその話はしないでくれ。非常に不愉快だ」
ふい、とクロから顔を背けた。
もう明日の話は聞きたくなかった。
柄にもなく子供じみていることは自覚している。
しかし、どうにも出来なかった。
「ご、ごごごめんよ。もう、言わない。不快に、させて悪かった、よ。……お、お金は、要らない。ちゃんと、あるから」
クロの顔をチラリと窺うも、感情は読み取れなかった。
ただ俯いて、首を左右に振っている。
きっと、太股の上で拳を握っているのだろう。
そんな気がした。
見ていられなかった。
ガタッ、と椅子がワザとらしく音を立てる。
ボクは立ち上がり、食べ終わった食器を流しまで運ぶ。
「ご馳走様。お風呂、先に貰うよ」
クロの顔を見ないまま、小さな声で其れだけ告げ、浴室に向かう。
クロからの返事は、無かった。
クロと出会ってから、かれこれ28年になるが、正直、喧嘩という喧嘩などしたことはなかった。
一緒に生活を始めてからも、大きな意見の食い違いもなく、自分で言うのもアレだが、仲良くやっていたのだ。
どうしたら良いのか解らない。
クロといると、常にそういった状況に追い込まれる。
幼い頃から、物事の顛末がはっきりと見えた。
先が読めてしまうのだ。
生意気だとクラスメイトから暴力を受けたのも、想定内のことだった。
ただ一つ、クロの行動を除いては、事前に解り切ったことだった。
初めて訪れた想定外に、ボクは浮かれていたのだろう。
要らなかった筈の友達を、自分から作ってしまったのだ。
後にも先にも、恐らくは一人だけだ。
ボクの友人は、クロだけなのだ。
其れだから、たった一人の友人と、初めての喧嘩をした時の対処方法など、ボクには解らない。
悩みの種が増えてしまった。
頭上から降り注ぐ水滴に打たれながら、今後のことを考える。
明日、仕事に専念するだけで良い。
早目に仕事を終わらせる。
其れだけだ。
何が起こるか、予想は付いている。
嫌な予想ではあるが、なるべく穏便に済ませるには、其れが一番なのだ。
シャワーに打たれたからか、己のするべきことを確認したからか、モヤモヤしていた頭もスッキリとした。
取り敢えず、何事もなく終わったら、謝ろうと心の片隅で思いながら、浴室を後にした。
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