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一章:SとK
喧嘩 04
しおりを挟む電車主流の時代に土地柄である。
バスは帰宅ラッシュの時間でも、電車程には混まない。
カバンから定期券ケースを取り出す。
ICカードになっている定期券だ。
乗り込む時に機械に翳し、ピピッ、と鳴る音を確認してから、後ろの席に足を向ける。
乗客の殆どが、60代以上のご老人だ。
前の方に座っている。
ボクは決まって後ろに座っていた。
今日は後ろから二番目の左側の席に腰を下ろす。
太股の上にカバンを乗せた。
発車まで3分程か。
窓の外に視線を走らせる。
明日のことを考えた。
万が一にも、もしものことがあった場合、継生の手に負えないことは解り切っている。
ボクでなければいけないのだ。
其れがボクの役目だ。
かと言って、自分は仕事、起こるのが自宅だとも限らない。
クロはノーと言えない。
何処に連れ込まれるか解らない。
其れをどうこう言っても仕方がない。
植え付けられた恐怖は、除くのに時間が掛かる。
莫大な時間だ。
問題はノーと言えないクロではなく、其処につけ込む輩がいることなのだ。
継生がそういった人間だとは思わないが、何故か焦っているようだった。
焦った人間は、何をやらかすか解らない。
頭が痛くなるようだった。
面倒なことになる予感と、ならないで欲しいという願い。
クロの大事なものを、守ることが出来なかった自分への楔でもあるのか。
忘れるな、ということなのか。
解らない。
其れでも、自分が繋ぎ止めた命なのだ。
柄にもなく懇願し、繋いだ命だ。
守る義務が、ボクにはある。
だが、気が重い。
頭が痛い。
苛立ちが消えていかない。
いつの間にか走り出していたバス。
流れる景色に浸ることもなく、頭を抱えて帰路を辿った。
家の近くのバス停で降りる。
バス停からは徒歩で二分程だ。
歩き出すも、一歩一歩が重い。
継生の馬鹿な質問のせいだ。
クロに会いたくない。
こんなイライラした状態で彼と向き合うのは、出来ることならば控えたい。
クロは空気に敏感だ。
苛立ちには特に。
帰りたくない。
そう思っても、歩けば目的地に辿り着く。
玄関の前で立ち止まっていた。
マンションの一室を借りている。
そう高価ではないが、二人で住むには十分な物件だ。
同じ階には、他に部屋が4つ程ある。
普通のマンションだ。
大きく息を吸った。
その空気を吐き出して、イライラを鎮める。
大丈夫だろうか。
いやしかし、クロは明日の話をするか否かで悩んでいることは明白。
もし、話題に上がった場合、矢張り苛つきは隠せないように思う。
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