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一章:SとK
担当医 09
しおりを挟む目頭が熱くなる。
目を瞬かせてどうにか堪えた。
惨めな気持ちになり、僕は俯いた。
解っている。
サンから離れることが、サンのためになると。
其れでも、サンが僕を庇ってくれるから。
僕は彼から離れられないのだ。
キツイ言葉を吐くけれど、キツイ言葉で傷付くけれど、キツイ言葉の裏に隠された優しさを、僕は知っている。
サンは、僕のために、普段は絶対にしない、懇願までしてみせた。
僕が死なないように、彼は先手を打ったのだ。
何故サンが僕に優しいのか、疑問に思うことは、勿論ある。
だが、サンが僕を好きだとか、そう言った理由でないことは明らかだ。
サンと暮らし初めてから、もう15年近くが経つ。
これだけ一緒に暮らしていても、何もないのだから、なんとも思っていないのだろう。
僕もサンも、普通に女性が好きなんだと思う。
否、良く解らないのだが。
僕は女性も含め人間が苦手なのである。
まず人間との付き合いが上手く出来ない。
当然、女性とも付き合えない訳だ。
好みのタイプも、特にはない。
根っからの人間不信なのだ。
サンも、根っこは僕と同じである。
女性を連れて来たことも、彼女を紹介されたこともなかった。
隠れて付き合っていたのかもしれないが、ああ見えてサンは努力家だ。
家で勉強している時間も多かった。
僕といる時間も多かったと思う。
あの状況で、隠れて付き合えたかと言えば、ノーに近いような気がする。
後ろ向きな僕の発言と、どんどん暗くなっていく表情に、励ますためか、継生が思い切ったように僕の肩を掴んできた。
驚きに目を見開いて彼を窺った。
「川路さん、気分転換、しましょ? 僕、明日非番なんです。どうですか、一緒に遊びに行きませんか? たまには普段と違う人間と違うことをするのも、良いですよ」
ダメですか、と捨てられた仔犬のような瞳に見詰められてしまう。
どうして良いのか解らず、僕は相変わらず挙動不審に目線を彷徨わせて言葉を探した。
「あ、え、あ、と。あ、ハイ。あ、イエ。え、え、え、と。サン、かと」
「河東先生に相談してから、って言うのはナシです」
にっこり、と笑顔で折角見付けた言葉を遮られてしまった。
どうして言おうとしたことが解ったのだろうか。
またしても顔が下に向く。
もう言葉が見付からない。
僕自身でノーと言うのは、出来なかった。
僕は弱い人間だ。
断ることが怖い。
冷や汗が額に浮かぶ。
「あ、何処に、行く、んですか?」
結局、口を出たのは、肯定するような言葉だった。
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