SとKのEscape

Neu(ノイ)

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一章:SとK

担当医 05

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カトウ、と叫ぶ聞き覚えのある声と、気になっている人間の名前だ。
クラスのガキ大将の声が、サンの名を叫んでいた。
合間合間で聞こえてくるのは人を殴る音だ。
体の震えが止まらない。
涙が溢れてきた。
サンを思ってではない。
植え付けられている、恐怖と苦痛を思い出しての涙だ。
僕はなんて賎しいのだろうか。
今そこで行われている暴行を止めることもなく、恐怖から逃げようとしている。
何れだけ苦しいのか、解っていると言うのに。


 暴力に生物は勝てない。
絶対の力だ。
毎日、嫌という程に味わう絶望と苦痛と屈辱と。
其れと何が違うのだろうか。
彼もまた、暴力に屈するのか。
屈することのない人間など、いないだろう。
其れだから、僕は彼女を責めない。
彼は、僕を責めるだろうか。




 ガタンっ――


 気付くと、僕は扉を乱暴に開けていた。
クラスメイトの男子が、五人程いた。
中心にはサンが寝転がっている。
見た目には外傷がない。
人の目に触れない箇所を殴られたのだろう。

「川路、こんなとこに何の用だよ?」

一番ガタイの良いガキ大将が、此方を睨み付けてくる。
小屋の中は、古い机と椅子、地図や定規など、使われなくなった道具が散乱していた。
激しく暴れたのだろう。
僕はサンを凝視したまま、震える声で何とか言葉を返す。

「あ、あの、えっと。こういうの、良くない、と、思うよ」
「こういうの? プロレスゴッコしてただけだろ。なあ、カトウ」

ガキ大将がにやりと笑う。
サンは緩慢な動きで上体を起こし、表情の解らない醒めきった顔で僕を一瞥する。

「悪いが、ボクは君達のような低能な人間と、これまたプロレスといった野蛮な遊びをする趣味はないよ。かと言って、君みたいに態々助けにやってくる人間の気持ちも解らないけどね」

サンは、フン、と鼻で嗤う。
ガキ大将の顔が険しくなり、拳が握られる。
その手は怒りで震えていた。
今にも殴りかかりそうな勢いである。
僕は咄嗟に駆け出していた。

「や、やめてよ! せ、せせ先生、呼んで来るよ。服で隠せても、捲ったら殴ってた痕、残ってる、んだよ。先生来たら、僕、見たこと全部、話す」

サンとガキ大将の間に入り込み、両手を広げて怒鳴っていた。
普段大人しい僕が大きな声を出したことに、一瞬ガキ大将は怯み、言われた内容を理解すると舌打ちをして僕を睨む。
僕は震えながらも視線を外さなかった。

「解ったよ。今日のところは勘弁してやる。精々嫌われ者同士、仲良くするんだな」

行くぞ、とガキ大将は他の連中を引き連れて小屋から出て行くのだった。
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