SとKのEscape

一章：SとK

担当医 02

仲は悪くないと思う。
継生もサンを慕っていると言っていた。
サンはサンで、意外と継生に期待を寄せているようだった。


　彼等自身の口から話す分には問題はない。
其れが、僕からの話題となると駄目なのだ。
どういう訳なのかサッパリだが、そうなってしまう以上は、自分から話題にすることはないように気を付けてはいる。
先程のように失敗することも多いのだが。


　恐らくは、お互いにライバル意識を持っているのだろう。
第三者から改めて話題にされると、ライバルという体裁を気にしてしまうのかもしれない。
勝手な憶測だ。
敢えて、確かめはしない。
違った場合のサンからの報復を考えると恐ろしくて聞けない。
かと言って、他人である継生に、其処まで踏み込んだことを聞く勇気もない。
故に、一人で悶々としてしまうのだ。


　こういうところが駄目なのだろう。
気にせず聞いてしまえば、幾分楽になれると解ってはいても、自分への評価が下がることを思うと聞けないのだ。
一見、他人を思いやっているようで、その実、保身ばかり考えているのだから、サンなんかよりもよっぽど嫌な奴なのかもしれない。
そう思うと落ち込んでしまう。




　「川路さん？　診察券の提示をお願いしても宜しいですか？」

考え込んでいたため、精神科の受付を素通りしようとしていたようだ。
精神科専用の受付嬢に声を掛けられてハッと我に返った。
診察表と診察券を入れた、地図がプリントされているファイルを受付に渡そうと引き返す。

「す、すいませ、ん。少し考え事を、していて。お願いします」
「いえ、大丈夫ですよ。お預かりしますね」

受付嬢は笑顔でファイルを受け取ると、中から診察券を取り出し、裏のバーコードを読み取る。
パソコンを操作した後、診察券をファイルに戻し、其れを僕に渡す。

「では、診察表の番号を呼ばれましたら、３番の部屋にお入り下さい。ファイルは先生に渡して下さいね。すぐ順番、回ってくると思いますので、彼方の椅子でお待ち下さい」

笑顔を崩さずに説明をする受付嬢を、ぼんやりと眺めて思う。
良く受け付けてくれる人だ、と。
其れだから、名前を知っていたのか、と合点がいった。
一度頷きを返し、ファイルを受け取ると、診察室の前に設置されている、クッションのきいた椅子に腰を掛ける。
他にも三人程、待っている患者がいた。
精神科の医師は、何人か在籍しているため、同じ科に通っているからと言って、同じ医師だとは限らない。
どのぐらい待つかは、その日の運次第である。