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一章:SとK
幼馴染 03
しおりを挟む吃(ども)りながら、視線をあちこちに彷徨(さまよ)わせ、必死で言葉を口にする。
サンの顔は見ないように、病室内をグルリと見回す。
白を基調とした清潔な部屋だ。
六畳程の狭い部屋だが、白いタイル張りの床と白壁になっている。
白に囲まれている光の拡散効果のお陰か、そこまで狭いとは感じない。
扉から入って一番奥の左側にデスクがあり、サンは何時も、青い回転椅子をデスクに対して横向きにして患者に向かい合う形で座っている。
ぴん、と伸びた背筋から姿勢の良さが感じ取れる。
彼の背筋は常に伸びている。
猫背の僕からすると、羨ましいのだが、サン曰く、猫背の方が愛嬌があって良いのだそうだ。
お互いに無い物ねだりなのだろう。
サンは大袈裟に溜め息を吐き出すと、体をデスクの方へと向ける。
キィー、と椅子が僅かに音を立てた。
眼鏡の支点を、くい、と右手の人差し指で押し上げるサン。
銀色のフレームが光を反射して、冷たい無表情な顔を一層冷たく見せる。
呆れ果てた表情を惜し気もなく露骨に顔に出しながら、サンは話し始めた。
視線はデスクの上のパソコンに向けられている。
僕の挙動不審な態度が気に食わないのだ。
「君、本当に莫迦だなあ。人の話しはちゃんと聞きたまえよ。誰も君と話す時間が嫌だとは言っていないだろう。お金を掛けなくても出来る事に、態々出資している訳だ、君は。詰まるところ、このボクが払っていると言うことだよ。解るかい? これ程までに理不尽なことはないよ。君は良いさ。ボクの家に居候して、生活費もボクが賄って、ヒモみたいな生活をしているだけなんだから。でもね、君。考えてもみたまえ。君を養うお金は、ボクがこうやって働いた対価として貰っているものなんだよ。君がボクの妻子ならば、こう文句も言いはしないさ。ただね、クロ君。君はただの幼馴染だ。少しは出費を抑える努力をして欲しいと、そう言うことだよ。ボクとは家でも話せるんだ。せめて通うのを精神科だけにするとかだね、考えてくれたまえよ」
パソコンと僕にチラチラと交互に視線をやりながら、サンは一息に喋る。
よくもまあ、息が続くものだと思う。
肺活量が人並み外れているのだろうか。
そう言えば、サックスだったかホルンだったか忘れたが、幼少から吹く系統の楽器を習わされていたと聞いたことがあるような気がする。
記憶が曖昧なところをみると、恐らくは随分昔に、中学生頃に聞いた話しなのだろう。
「クロ君、君ねえ。全く、人の話を聞いているのかい? 何をニヤニヤしているんだ」
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