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一章:隣人さん
憧れの大人 02
しおりを挟む空腹が一気に襲ってきた。
「は、い。お邪魔します」
私服に着替えている薫は、Vネックの薄いシャツを着ている。
一枚でも温かいという代物だろう。
灰色のシャツに下は黒のスラックスを合わせている。
すらり、として細身に見えた。
靴をたたきで脱いで部屋に上がり、僕は薫におずおずとコンビニ袋を差し出す。
「これ、今日納品された新商品で、さっき陳列したんですけど。一緒に食べたくて買ってきました。その、お菓子大丈夫ですか?」
シフト上がりに店長が並べた新商品のお菓子は、巷で噂されていたもので、ちょっとした話題になっているものだ。
「あ、コレ! 買おうと思ったら並んでなくてさ。いいの? すごい嬉しいよ」
驚愕に目を見開いた薫の顔に満面の笑みが浮かぶ。
人の喜ぶ姿を見るのは嬉しかった。
「新商品はいつも店長が来てから並べるので。さっき並べたばかりなんです」
薫の手にコンビニ袋が渡り、俯き加減ではにかんだ。
油断していると、下から顔を覗き込まれ、すぐ目の前に薫の顔が見える。
吃驚して顔を、がばり、と勢いよく上げ、一歩後退っていた。
「あ、また緊張してる顔に戻った。笑った顔、可愛かったのに、残念」
つんつん、と頬を人差し指に突付かれ硬直する僕に困ったように頭を掻いて笑う薫を凝視する。
「ごめんね。男の子に可愛いは禁句だよな。でも本当に可愛いと思って。あー、ホントごめん。何言ってんだろ、俺。……カレー、好き?」
口元を覆い何とか言い繕うとする薫は最終的には顔を赤くさせ話を変えた。
照れた顔で尋ねてくる彼に頷いてみせる。
そのタイミングで僕の腹は盛大に「ぐるるるるるっ」と空腹を訴えるのだった。
催促するかのように鳴った腹の虫をおさめるべく通されたダイニングで、薫と向かい合わせでテーブルに着く。
待ってて、と言われキッチンに消えた薫が、手にカレー皿を持って戻ってきた。
目の前に置かれた皿からは食欲を誘う美味しそうな香りが立ち上っている。
スプーンを受け取り、薫が席に着くのを待った。
「市販のカレーだから偉そうに言えないけど。昨日の謝罪を込めて頑張って作りました。どうぞ召し上がれ」
戴きます、と手を合わせスプーンに米とルーを掬う。
薫の視線を感じながら、ぱくり、と口内に入れた。
「あ、……美味しい」
高級な味がする訳でも、何か特別な食材が入っている訳でもない。
何処にでもある普通のカレーだ。
それでも自分の為に想いを込めてくれたというだけで、何よりも美味しく感じられた。
自然と微笑んでいることに気付かずもう一口を食べる。
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