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一章:キチガイ×ヘンタイ

俺を変態だと吐かすお前の方がキチガイな件 08

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放つ色香は、性別などどうでもよくなってしまいそうな程に甘い。
女装をして女の真似事をしながら生活をする雄仁を、俺はいつでもキチガイだと思ってきた。
悪い意味ではなく、ネイリストとして追究するところまで追究し、行き着くところまで到達した一握りの人種なのだと認識していたのだ。
キチガイと呼ぶのにもリスペクトを込めている。
俺がネイリストになった理由など、常に爪を見て触れて弄れるからという、自分のフェチを満たすもので、この仕事自体に熱い想いなど存在しない。
何となく周りに合わせ、適当に言われたことをこなして、唯々諾々と生きてきた俺には、雄仁という存在が眩しく思える程だ。

「休みの日までスカート穿けって? 俺、男だからスカートよりズボン派なんだよな。それに、盛っても責任は取るから安心しろ」

ハッ、と鼻で笑い髪を掻き上げた彼は、手首に嵌めているヘアゴムで髪の毛を一つに結い上げる。
仕草も声色も男のもので、普段から女装女口調女声に慣れている俺には違和感だけが残る。

「スカート派だって言う男がいるなら逆に見てみたいわ。せ、責任は取らなくていいから、……来いよ」

隣を、ぼすぼす、と叩き羞恥に染まった顔で雄仁を見上げた。
ゆっくりと俺の前に腰を降ろし、自然な動作で足を組む様に見惚れてしまう。
所作の一つ一つが洗練されていて彼の動きは無駄に美しいのだ。

「爪で触られて感じてたよな。俺がキチガイなら、ムウは変態だ」

揶揄するように宣い笑う雄仁の指が顎に掛かり、くい、と上向かせられる。
何が可笑しいのか、彼は楽しそうに笑っている。

「俺は変態じゃねぇよ。少しばかり、特殊なだけだ」

ふい、と視線だけを逸らし反論した。
本当ならば顎を捉える手からも逃げ出したいが、それ以上の欲に俺は因われてしまったのだ。

「一応は特殊だって自覚はあるのか。ほら、どうして欲しいのか、どうしたいのか、言ってみろよ」

普段は魅せない男臭い笑みを口元に湛えた雄仁の指が悪戯に顎を擽る。
爪先が皮膚を掠める度に胸の内から溢れ返る劣情が熱い吐息となって外に出ていく。
少し意地の悪い言い方にも、いつもなら噛み付きたくなるのに、今この時ばかりは従いたくなってしまう。

「な、めて、良いか?」

どくどく、と高鳴る心音が煩い。
男の癖に美しい形をした爪を、口に含んで舌で嬲りたい。
今まで女性の爪に欲情したことはあれど、男の爪に身体が滾ったことはない。
女だとか男だとか考えることが馬鹿らしいと思える程に彼の爪は艶めいて俺を誘うのだ。

「舌、出して」

言われるままに差し出した舌を掴まれる。
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