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一章:キチガイ×ヘンタイ
俺を変態だと吐かすお前の方がキチガイな件 05
しおりを挟むはあはあ、と息が荒くなっていく俺を目に、揶揄(からか)い混じりの台詞と笑みを向けてくる彼に何も言い返せない。
普段ならば抗議するのだが、今はそれどころではなかった。
手で触れ、舌で感じ、頬擦りをしたい。
そんな欲求に突き動かされていた。
「好きにしても良いけど。アタシにも何か見返りがないと、フェアじゃないわよね?」
俺の手を放し、目の前で爪を見せびらかすようにヒラヒラと揺らして、雄仁は口角を持ち上げていく。
何かとんでもない要求をされるのではないか、と頭は警鐘を一生懸命に鳴らしていた。
それでも俺は、彼の爪の誘惑には勝てないのだ。
「何が望みだよ? 俺で出来ることなら。出来る範囲でなら。言うこと聞いてやる」
キッ、と睨み付けながらも負けを宣言すれば、雄仁の眼が細まり、唇を綺麗な指に撫でられる。
「そんなにアタシの爪が気に入った? ふふ、怯えなくても大丈夫よ。取って食ったりしないから。そうね、一緒に映画でもどう?」
無意識に肩を揺らした俺の上唇を緩慢な動きで雄仁の指が辿っていく。
彼は楽し気に提案し首を傾ける。
もっとイヤらしくていかがわしいことを求められるかと思っていた。
拍子抜けして思わず口が半開きになる。
「映画、観に行くだけで、いいのか?」
「ええ、勿論。交換条件に性的なことを要求する程、アタシはゲスくないわよ。安心してちょうだい。まあ、ムウが望むなら話は別だけど」
唇から指が離れていくのを目で追うと、鼻の頭を突付かれた。
悪戯に笑う雄仁の顔が、何故だか優しく見えてしまう。
思わず息を止めて彼を凝視していた。
言い返さなくてはと思っても、言葉が出ていかない。
「何にしても嫌がることはしないわ。……俺は昔から好きな奴には一途だし、誰よりも優しくしたいんだよ。ムウは、俺の中から初恋を消してくれた特別な存在だから。大事にしたいし、何よりも大切に思ってる」
戸惑って声も出せずにいる俺の頬を両手で包み込むと、雄仁の顔が近付いてきた。
額同士が、こつり、と合わさり、真剣な眼差しに見詰められる。
彼は考え込むように少しの間を空けた後で、声色と口調を男に戻した。
違和感を覚える低い声が切ない響きで耳に届く。
「俺は、男を恋愛対象として好きになったことがない。別にお前のことは嫌いじゃねぇし、良い奴だと思ってる。でもそれは、同僚としてだ。男を好きだからってお前のこと嫌いになったりしないけどな。恋愛対象として見ることが出来るのかは俺にも解らない。それでも良いのかよ? 逆に辛くねぇか?」
雄仁の真っ直ぐに届く好意が痛くて俯いた。
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