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一章:親友の異変
光輝親衛隊 01
しおりを挟む【光輝親衛隊】
突然の光輝の告白は、誡羽にとっては驚きしかなかった。
どさくさに紛れてキスをされてしまったことでさえ霞む程に、誡羽は混乱していたのだ。
隣を歩く光輝と少し距離を置いたのは、落ち着いてきた頭が、キスをした事実を思い出したからである。
怒った方が良いのか、放置しても大丈夫なのか。
大体、怒るにしても、もう何分も経っている。
今更過ぎる上に、蒸し返すのも恥ずかしい。
悶々と考えている誡羽は、光輝が近付いているのにも気付かなかった。
「朝、ごめんな」
もうすぐ教室に辿り着く廊下で、光輝はバツが悪そうに謝ってきた。
折角空けた距離は縮まって、すぐ隣にいる。
何のことだか解らずに無言で彼を見詰めれば、目を逸らされた。
「態度、冷たかったかなあ、って思って。気にしてないなら良いや」
「気にはなったけど。嫌われた訳じゃないみたいだし、気にしないことにした。それよりも、その、転校がどうのって話は、大丈夫そうなのか?」
嗚呼、と相槌を打つも、心配気に光輝を窺う。
にへら、と緊張感のまるでない笑みで一言「大丈夫」だと告げられた。
「ちゃんと自分の気持ち伝えたから、俺の勝ち。まあ、俺が勝った方があの女にとっては、都合が良いんだろうけど。裏で色々動いて、こうなるように仕向けたんだから、気も済んだだろうし」
「なんか良く解らないけど。大丈夫なら良かった」
安心したと微笑み掛けると、光輝の目が細まった。
その愛しそうな眼差しがヤケに甘く感じられて恥ずかしくなる。
今までもこういった顔で見られていたのだろうか、と疑問に思う。
これまで全く気付かなかった己の鈍さに、胸中は複雑さを極めた。
何とはなしに沈黙が続く。
そのまま教室の前に辿り着いたところで、タイミング良くチャイムが鳴った。
「急げ、誡羽。先生が来る」
「あ、うん」
そう言えば、と思い返してみれば、教室から逃げて来たのに、いつの間にか戻って来ていた。
先程のような息苦しさは感じられないが、それであっても、戻る時には勇気が必要なのだ。
怖じ気づいて動けない誡羽の手を、光輝の手が握り込んだ。
「怖い?」
光輝の掌に包まれた其処は、温かさを感じていた。
優しい音色に尋ねられる。
自然に首が横に振れた。
ぼんやりとしている。
意識が光輝の温もりにばかり向かう。
「大丈夫、一緒だろ?」
トドメとばかりに、彼はその綺麗で格好いい顔で以て、美しくも微笑んだりするのだ。
誡羽は無意識に頷いて、光輝の手に引かれるままに教室にと足を踏み入れていた。
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