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一章:親友の異変
異変×噂=告白 16
しおりを挟む「何で、泣いてたの?」
「……な、なんでも」
ないから、と言おうとして、言葉は出て行かなかった。
首筋に光輝の顔が埋まる。
背中に回された腕の強さに息が詰まった。
光輝に抱き竦められている。
そう頭が認識しても、どうにも出来ない。
抵抗するでもなく、受け入れる訳でもなく、ただ呆然としていた。
首に掛かる熱いものが、光輝の息だと解っていて、それでも誡羽は動けずにいる。
「俺、お前の親友でいたかった。きっと、気持ちを伝えたら、親友とかそういうの、壊れるから。言いたくなかったんだ。だけどさ、他の奴に奪われたら、俺、おかしくなりそう」
「な、なんの、話?」
光輝が何を言っているのか、誡羽には理解出来なかった。
彼の腕の中で、漸く身動いだ。
だが、それを許さないとばかりに、力は余計に強くなる。
「松っちゃんに、何されたの? 誡羽、泣いてた」
「何もされてないよ! 本の話をしてただけ」
「あんなに顔を近付けて、何の本の話だよ」
何も言い返せなくなった。
疚しいことなどしていないが、確かにあの状況は、端から見たらおかしかったかもしれない。
「あの女の賭けに乗るのは悔しいけど、もうそんなことも言ってられないから。俺、誡羽に言いたいことがある」
どん、とまた体が壁に押さえ付けられる。
両肩を掴まれている。
光輝の顔が、どんどん近付いてくる。
「俺さ、誡羽のこと好きなんだ。友人に向けるものじゃなくて。ライクじゃなくて、ラブの方の好き。手とか繋ぎたいし、体に触れたい。キスしたいし、抱き合いたい。エッチなことも、したい。そういう感情で、お前のこと見てる」
両肩にあった手は、誡羽の頬に移り、挟み込まれた。
顔を動かせない。
眼前に迫る光輝の顔に、思わず目を瞑った。
額に柔らかいものが触れて、それは目蓋に落ち、頬に落ちて、最後は唇にまでやってきた。
うっすらと目を開ければ、光輝に啄むようなキスをされている。
一気に身体中に血液が巡る。
熱い。
全身が燃えるように熱かった。
「こっ、こうき」
「ごめん、誡羽。気持ち悪いよな」
体が離された。
しゅん、と項垂れて、光輝は隣に移動する。
壁に背中を預け、ずるずるずる、と座り込んだ。
頭を抱えていて顔は見えない。
誡羽もしゃがみ込む。
「気持ち悪くは、ない。けど、いきなりのことで、まだ理解が追い付かない。今すぐ返事は返せないけど、ちゃんと考えて返事したいから。待ってくれるか?」
暫く沈黙を置いた後で、思い切って口を開いた。
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