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一章:親友の異変
異変×噂=告白 15
しおりを挟む耳許で囁かれる甘い誘いが、弱い自分を刺激して頷きそうになる。
けれど、誡羽は寸でのところでイヤイヤと首を否定の形に動かした。
「ぼ、僕は……」
何かを口にしようとした。
何を言おうか決まっていた訳ではない。
それでも、何か言わなくては、本当に光輝との絆が壊れてしまいそうで怖かった。
がちゃ、と音がした。
誡羽の言葉を遮るようにして聞こえたそれは、カウンター側の扉が開く音で、そう認識した途端に、腕を強く引かれていた。
引っ張られて、椅子から立ち上がらされる。
がたん、と椅子が倒れる音が聞こえた。
司書は床に尻を着けて笑っている。
片腕を強く掴んでいるのは誰だろうか、と恐る恐る視線を背後に向ければ、いつものヘラヘラした顔ではない光輝がいた。
つり上がった目は司書を睨み付けているようだった。
「何してんの? 松っちゃん、何してた? 何で誡羽、泣いてんの?」
「高飛が泣いてるのは佐倉のせい。僕は泣いてる可愛い生徒を慰めてただけだよ」
怖い怖い、と呟きつつ両手を上げてみせる司書。
誡羽は今の状況に着いて行けず、取り敢えず、光輝から離れようと腕を捩る。
が、光輝の力は強く、寧ろ離れるなと言うように腕を掴んでいる力は強くなっていく。
「こ、こうき。うで、いたいよ」
ぐすん、と鼻を鳴らしながら伝えても、光輝は腕を離そうとはしなかった。
「ちょっ、光輝!?」
しかも、誡羽を引き摺るようにして彼は準備室から廊下に繋がる方の扉に向かう。
強い力で引かれてしまえば、誡羽も着いて行くしかなく、光輝と共に図書準備室を後にした。
出ていった二人を眺め、司書はやれやれと肩を竦ませる。
「理事長命令も楽じゃないね」
ぼそり、と呟き、彼は何事もなかったように業務に戻るのだった。
痛いよ、と声を掛けても、光輝は腕の力を弛めもせず、歩も止めず、辿り着いたのは、図書室とは反対側の木工室近くの階段下だった。
上がり口の裏側にはスペースがあり、ひっそりと掃除道具が置かれていたりする。
奥まっているため、薄暗く人気(ひとけ)もない。
そのスペースに連れ込まれ、体を壁に押し付けられた。
光輝の顔がすぐ目の前に見える。
長い睫毛が上下して、瞬いたと知れた。
そんな暢気なことを考えている場合ではない、と掴まれている腕を壁に縫い付けられて我に返る。
「こ、こうき?」
恐る恐る名前を呼んだ。
綺麗な顔は、ぴくりとも動かない。
表情が読めない。
余計に怖かった。
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