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一章:親友の異変
異変×噂=告白 14
しおりを挟む「少しずつ、という感じです。頭が痛くなりますね」
「そういうのはさ、読んでも平気な人間と、駄目な人間といるんだよね。佐倉は平気な人間。でも、きっと高飛は、辛いでしょ。あんま無理して読まなくても、佐倉は高飛のこと嫌いにならないよ」
かりかり、と司書が文字を連ねる音に混じって、彼はそう言った。
肩が跳ねて息も詰まる。
「でも、幻滅されたくない」
「うん、そうだよね。怖いよね。けど、彼奴はそんなことで人を評価しない。頭の痛くなる本って言うのは、難しいのもあるけどさ、呑み込まれていくから、危ないんだよ。無理するのは却って良くない。向き不向きは把握して本を選ばないと、下手すれば潰れる。意外と怖いんだ、読書って」
顔が下を向く。
小さな声で呟けば、優しく諭された。
良く解らないが、涙が込み上げてくる。
光輝の隣にいても相応しい人間になりたかった。
光輝が薦めてくれたことが嬉しかった。
期待に応えなくては、と無理もした。
最初読んだ時には気付いていたのだ。
自分には合わないと。
それでも、光輝の親友として相応しい人間になりたかった。
そういったもの全てを、司書には見破られていたのだ。
恥ずかしいような嬉しいような、擽ったい想いに駆られる。
じんわり、と目尻に溜まった涙は、重力に従ってボタボタと落ちていった。
テーブルの上に水溜まりを作り、ズボンの太股の部分を濡らす。
「そんなに辛いなら、やめちゃえば? 親友なんて」
不意に頭を撫でられた。
繊細だが大きな大人の手だった。
次に放たれた言葉に目を瞬かせて彼を凝視する。
え、と口を出た言葉と、司書の「佐倉には合わないよ」と言う台詞が被った。
頭を撫でる手が下に滑り落ちて、両の掌に頬を挟まれる。
いつの間にか隣にいる司書は、しゃがみ込んで誡羽と視線を合わせていた。
すぐ目の前に司書の顔があり、誡羽の頭はパンク寸前である。
何も考えられなかった。
ただ、告げられた台詞は、常に自分の中にあったもので、恐らくは学園中の誰もが抱いているものだ。
うえっ、と嗚咽が口を出て、涙も次から次に溢れてきた。
何故だろうか。
親友に相応しくないと、それだけのことが酷く胸を苦しめていく。
嗚咽を溢しながら、くしゃくしゃの顔で泣く誡羽の頭が、そっと抱き寄せられる。
司書の肩に額が当たった。
ぽんぽん、と叩かれる感触が心地良い。
無意識に彼の腕にしがみ着いていた。
「高飛は、佐倉と居たら無理しちゃうだろ。自分に合った人間を探しなさいよ。佐倉は凄すぎるから、同じようなカリスマじゃないと、相手が潰れちゃう。高飛には荷が重すぎる」
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