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一章:親友の異変
異変×噂=告白 09
しおりを挟むぼそり、と呟く光輝をソファーに座るよう勧め、柏木は左側の壁にある扉から出て行った。
暫くしてお茶を手に戻って来ると、ローテーブルの上に並べ、光輝の向かいに座る柏木を、光輝はジッと見ていた。
「どうぞ、お飲み下さい」
「どうも。頂きます。……用件は、何なんですか?」
湯呑みを持ち上げて、一口飲む。
緑茶独特の苦味と、ほのかな茶葉の甘味が口の中で広がる。
間髪入れずに問い掛ける光輝に、柏木は苦笑を返した。
「光輝様には多大なご迷惑をお掛けしております。理呼様は少々、現実と妄想の境目が曖昧なご様子で」
「良いよ、そんな謝罪は。アンタも彼奴には頭が上がらないんだろ? 解ってるさ、俺だって」
長々と続きそうな謝辞を止めて、光輝は真顔になった。
「要求は何なの。伝言でも預かってんでしょ?」
「はい、お察しの通りです。高飛 誡羽とは距離を置くこと。今日は学校を休み、堀中邸に泊まること。……そう承っております」
「そ。アンタも大変だね」
自分の分の湯呑みに口を付け、一息に伝言を伝えた後、柏木は大きな息を吐き出した。
光輝は哀れむ目で彼を見遣れば立ち上がる。
「じゃ、荷物用意してくるわ。悪いけど、寮まで迎えに来てくれる?」
「はい。そのつもりで御座います。……理呼様は、あの方は、ことこのことに関すると周りが見えなくなりますが、とても優しくて聡明で」
「アンタの姫さん自慢は聞きたくないよ。何であれ、俺はあの女、嫌いなの。ま、今は従うけどね」
扉の前で一旦立ち止まり振り返る光輝の顔には、綺麗な笑みが浮かんでいた。
綺麗だからこそ、彼は怒っているのだと柏木は理解した。
光輝はひらりと片手を揺らし、そのまま理事長室から出て行った。
腰から曲げる一礼をし、光輝を見送った柏木は、またもや溜め息を吐いて苦笑を滲ませる。
「理呼様。お痛も程々にされて下さいよ」
ぼそりと本音が溢れるのだった。
* * * * * *
時間は戻り、誡羽が珍しくも早起きした朝。
和志と健の部屋より退室した誡羽は、寮から出て学校に向かっていた。
寮から一直線に伸びる歩道を歩く。
部活動だろうか、ちらほらと体操服やジャージ姿の生徒が見えた。
大きな溜め息が口を吐く。
光輝に会いたいような、会いたくないような、複雑な心境だった。
光輝の事情は良く解らないのだ。
自分は何の役にも立たない。
光輝には助けて貰っているのにだ。
あまりにも情けない。
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