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一章:親友の異変
異変×噂=告白 08
しおりを挟む「なあに、センセ」
「あ、佐倉君。その、理事長が、お呼びらしくて。詳しくは僕も解らないんだけどね」
案の定、彼は落ち着かない様子で一生懸命に話し始めた。
光輝は苦笑を浮かべれば了承の意を表すように頷く。
「りょーかい。理事長室に行けば良い?」
「多分。一人で大丈夫? 僕も着いて行こうか?」
「大丈夫大丈夫。流センセは授業でしょ。ほら、支度しに行きなよ。俺、大丈夫だから」
心配だと顔面全てで表現する流の背中を軽く叩いて笑い掛ければ、逡巡するものの最後には渋々と引き下がる流であった。
光輝は立ち去っていく流の背中を眺めて、軽く息を吐き出した。
理事長室に赴くのは、気が重い。
相手は最高権力者である。
嫌々ながらも、行かなくてはならない。
緩慢な動きで立ち上がり教室を出る。
誡羽の心配そうな視線に気付いたが、彼を安心させてやれる程の器量は、今の光輝にはないのであった。
気付かないフリをして、扉を潜り抜ける。
廊下を右に進み、階段を降りる。
左側に歩いて行くと、校舎から理事棟に繋がっている渡り廊下に出る。
其処を歩いて理事棟の開き扉を開けて中にと入った。
渡り廊下のむんとした暑い所から、屋内の空調の利いた涼しい場所に移動し、一瞬くらっと目眩がした。
扉を抜けてすぐの所にある螺旋階段で3階まで上がっていく。
廊下に入り絨毯の敷かれた其処を歩く。
部屋を二つ越して、次の扉の前で立ち止まった。
表札は、理事長室。
息を吐き出してから、ノックする。
二回、叩いた後に、中から男性の声が聞こえてきた。
「どうぞ、お入り下さい」
「失礼しまーす」
遠慮なくドアノブを捻り、扉を開けた。
真っ正面の窓近くには茶色い大きな机、その前、扉に近い方には、ソファーとローテーブルが置かれている。
声の主は、20歳前後の青年であった。
オールバックの黒髪に、シルバーフレームの眼鏡。
黒いスーツに落ち着いた色合いのネクタイを締めた彼は、180cm近くあるだろう体を持ち上げて、腰掛けていたソファーから光輝の目の前まで移動してきた。
「佐倉 光輝君ですね? 君は、和志様の友人で理呼様の事情も知っているそうですが」
「事情、と言っても、詳しくは知らないよ。和志が知っていることぐらいしか解らない」
「そうですか。私は、理呼様のお目付け役を勤めております、柏木(カシワギ)と申します。普段は、理呼様の代わりに理事長業務をしています。何せ理呼様はまだ学生ですので。学業をされている間は、私が代行しております」
「ふぅん。今は学校か、あの女」
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