18 / 22
一章:好きです、先輩
先輩の危険と後輩の噂 08
しおりを挟む上目遣いに見えた安月の顔が近付いてくる。
額に触れる柔らかな感触に腹が立った。
「言った傍からお前は! 怒るぞ、馬鹿野郎!」
頭で安月の胸板をゴンゴンと叩く。
笑う安月に頭頂部を掴まれ動けなくなった。
「もう怒ってんじゃないっすか。今のは府末さんが悪いっすよ。我慢するの大変だって言ってんのに、アンタわかってないでしょ。……ゆっくりがいいなら煽らないで下さいよ」
表情は楽しそうに笑っていながら、口調には怒りが籠められている。
彰治は小さく「煽ってねぇよ」と反論することしか出来なかった。
怒らせると怖い男だとインプットされてしまったのか、無意識に体躯が震える。
「そうでしょうね。先輩は自覚がないっすから、いつも。俺の忍耐力に感謝して欲しいぐらいですよ」
大袈裟に息を吐き出し肩を竦める安月に釈然とせず、つい唇を尖らせていた。
どの言動が男を煽ったのか本気で解らない上に、恩着せがましく言われてしまうと面白くない。
「男は恋愛対象じゃなくても、俺のこと本気では拒まないじゃないっすか。それって、恋愛対象として見ようとしてくれてるってことっすよね? ゆっくりなら受け入れられる。俺にはそう聞こえたんでテンション上がったんすよ」
双眸を細めて見詰めてくる安月に返す言葉もなく俯く。
拒んでいる、とは言い切れないことは良く解っていた。
受け入れられないのであれば、接点を極力持たなければいいのだ。
流石に性的な触れ合いは回避したいが、行き過ぎない程度の接触は何だかんだで許している現状にある。
「……帰ろう。明日、気を付けてな」
何も言い返すことが出来ずに困っていると、タイミング良く一階に着いた。
誤魔化すみたいにエレベーターから降りていく。
「先輩も気を付けて下さい。アンタに何かあったら俺、正気でいられないから」
背後から聞こえた安月の声音が、ヤケに切なく響いていた。
* * * * * *
先日の出来事を思い出したのは、新人の何気ない世間話からだった。
いつもは適当なことばかり繰り返し余計な仕事を増やした上で定時にはさっさと帰ってしまう毅が、何故かこの日は定時を過ぎても彰治と残っている。
真面目にパソコンと向き合っている姿に違和感を覚えてしまう。
他の社員は既に帰宅し、フロアには誰もいない。
そんな状況で気まずさを感じながらも、後少しだけ残っている事務処理を終わらせようとパソコンと睨み合っていた。
「府末先輩は、三田村先輩と仲良いですよねー。知ってます? 三田村先輩のウ、ワ、サ」
唐突に話し掛けられ視線を向ける。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる