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三章:悪魔憑きとエクソシスト
神父見習いの場合(3)02
しおりを挟む間を空けた後で重々しく言葉を放つも、すぐに途切れてしまう。
じゅううう、と焼ける音だけが部屋を満たしていく。
ぱちん、と油が跳ね、ブランの動きが再開された。
「街の中で変な噂が流れているようでね。本人が気付いているのかどうかは何とも言えないけど。少し気を付けてあげて欲しい。嫌な予感が消えないんだ」
顔だけを向けるブランの顔が怖いぐらいに真剣で、ミルは知らず知らず喉を鳴らしてしまう。
切な気に垂れた眉が、今にも泣き出しそうに見えた。
「噂、ですか? どのようなものでしょう?」
フィン・春輝=ヴァッジのことを考えると、ミルの胸は張り裂けそうに暴れる。
ミルに「好きだ。愛している」などと告げてくる同性の少年は、先月の事件以降、今まで以上に絡んでくるようになった。
彼への恋心を自覚し、両想いだと知りながらも、ミルの中にはフィンと歩む未来はない。
少年の幸せを思えばこそ、自分といるべきではないと結論を出したのだ。
「悪魔と契約をしているところを見た、と。最近、取り乱す者が増えていて、悪魔憑きだと訴えてくる人が多くてね。それに呼応するかのように、フィンが悪魔と契約し、街人に取り憑かせていると言う噂が出てきた。勿論、フィンは神にも悪魔にも興味すらないような子だから、悪魔と契約だなんて有り得ない。だけどミル。世間にとって大事なことは、真偽ではなく、如何に悪者を作り出すかなんだよ。その点に於いて、フィンほどピッタリな人間はいない」
焼いた具材を一旦皿に移し、フライパンに油を付け足すと溶き卵が流し込まれていく。
何処となく翳るブランの表情に、ミルは言葉を失う。
もしも、ブランよりも上に報告がいけば、エクソシストが派遣されるかもしれない。
悪魔憑きから悪魔を祓う彼等が来る分には何の問題もない。
だが、フィンは悪魔を憑かせている、と噂されてしまっているのだ。
その事実は、ミルの中にも漠然とした恐れを齎す。
昔、悪魔と契約を交わしていると訴えられた人間が処刑されるという事件が起きていた。
本来ならば、司法を動かす力などない筈のエクソシストと村の裁判機関が癒着し、根拠もない証言だけで以て何人もの処刑を敢行した惨(むご)たらしい冤罪事件だった。
後に、麦による集団食中毒での幻覚や幻聴が原因だったと判明しているが、エクソシストとの癒着がなければ処刑までには至らなかったであろう。
ぴーぴー、とオーブンが鳴る音にハッと我に返り、急いで蓋を開けた。
小麦とチーズの焼けた芳ばしい香りが鼻一杯に広がる。
パンを皿に取り出しテーブルの上に置いた。
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