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三章:悪魔憑きとエクソシスト
神父の場合(2)02
しおりを挟むとても恐ろしい流れだった。
ブランは最悪の事態を考え、掌を合わせ神に祈る。
エクソシストとは、悪魔憑きから悪魔を祓う職務を負う者である。
悪魔を祓う権限はあれど、彼等に悪魔と交信した者を処刑する権限はない。
その点では、何も問題がないように思えた。
ブランが恐れているのは、ある男がやって来ることだった。
エクソシストでありながら、煽動者のような男だ。
ただの思想性癖を、悪魔憑きの仕業だと人々の心に植え付け、差別の心を芽生えさせ、権力者でさえも操ってしまう。
ブランが自らの息子の性癖を悪だと憎んでしまった背景に、その男がいた。
もしも彼がやって来たならば、少年にとっては厳しい状況におかれることだろう。
ブランでも庇い切れはしない。
処刑すらも有り得るのだ。
集団パニックを引き起こし、処刑する方向に流れを動かしてしまえば、人々は簡単に、罪悪感もなく、無実の人間を殺してしまえる。
それは悲しいことに歴史が証明していた。
「主よ、どうか。どうか、フィンとミルをお守り下さい」
養い子のミル=ルークスを想うと胸が痛む。
自分の罪に捕われ、幸せを遠ざけようとしている彼のささやかな幸せでさえも壊れてしまうかもしれない。
悪魔の色を宿す少年、フィン・春輝=ヴァッジに恋心を抱きながら、神職者になるのだという気負いがミルを頑なにしていた。
ミルとフィンの関係性を知っているブランからすれば、ミルの想いなどバレバレなのだが、ミルは必死で隠しているつもりなのだ。
勿論、フィンとてミルの気持ちに気付いていることだろう。
とても聡い少年である。
先月起きた誘拐及び監禁暴行事件も、事前に危険を察知していたフィンのお陰で大事にならずに済んだとも言えた。
ミルに暴行を加えた女を許したくないと言うフィンも、ミルが事を大きくしたくないと訴え、和解が成立している。
幼かったフィンは他を寄せ付けようとはしなかったが、ミルと出逢ったことで少しづつではあっても許容することも覚えているようだった。
彼に言わせてみれば、ミルがそう望むから、なのだろう。
ミルを中心にしてフィンの世界は構築されていた。
その危うさを認識した上で、ブランは何も言えずにいる。
フィンにはミルが必要で、ミルにはフィンが必要なのだ。
共依存とも言える関係性は、安易に手を出せるものではない。
外野が下手に関われば、一気に崩れて壊れてしまうだろう。
彼等が互いに歩み寄り、在り方を模索していくべき事であり、ブランに口を挟む余地などある筈もなかった。
見守ることしか出来ないのはもどかしいものだ。
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