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二章:訪れた変化
誘拐された場合(2)02
しおりを挟む鬱々と考え込んでいると、古い扉が開く音が響いてくる。
後ろを振り向くと、神父が息を切らして走ってきた。
俺の隣で立ち止まり、険しい表情でこう口にする。
「街外れで女性に担がれるミルを見た人がいた。介抱しているような素振りだったから気にならなかったそうだが、女には見覚えがなかったそうだ。急ごう、フィン。ミルに危険が及んだ時に彼が出て来ないとは言い切れない。最悪、死人が出る。キルが暴走する前に止めなくては」
俺の肩に手を置いたブランが誰に言うでもなく呟き唇を噛み締めては俯き首を左右に振っている。
キルが誰なのか。
何故、死人が出るのか。
聞きたいことはあったが、今はそれよりもミルを助けることの方が優先事項だった。
ミルに危険が及ぶと考えただけで手当り次第に破壊したくなる。
ふつふつ、と煮え滾る激情を押し込め、扉に身体を向けた。
* * * * * *
ブランの運転する車に乗り込み、向かった先は郊外の畑と果樹園が広がる一角にある寂れた工場だった。
既に廃業しているのだろう、機能している様子はみられない。
もう使われていない筈の工場の敷地内に一台、車が停まっていた。
その車の横に駐車し、車から飛び降りる。
ブランの背を追い掛けるようにして工場まで走った。
神父越しに見えた工場内は、使われていない大型の機械が埃を被り点在している。
そんな機械と機械の間の埃まみれの床に転がる女が一人。
その上に跨り女の首を締め上げているミルがいた。
姿形は確かにミルだった。
しかし、その表情は決して彼が浮かべはしない残酷なものだ。
殺人鬼の顔だと瞬時に察したのは、ブランの言葉のせいなのか、はたまた数年前に聞いたミルの言葉のせいなのか。
同類だからだ、と囁かれた気がしたのは自意識過剰なのか。
見たこともないミルを目の前にして、俺の頭は真っ白になっていた。
心の奥底から人間を嫌悪し、甚振ることを愉しんでいる。
命を奪うことにさえ何の躊躇もみせない悪魔だった。
ミルの姿をした悪魔は、俺が恐れていた俺自身そのものにも思える。
俺が動けずにいる間にブランがミルを取り押さえ、女は命を奪われずに済んだ。
神父に声を掛けられ漸く働き始めた俺の思考は、ミルの頬の腫れにばかり向いてしまう。
ほっそりとした色白の顔には、殴打の痕が残り痛々しい。
ミルを傷付けた人間を生かしておきたくなかった。
今すぐにでも殺してしまいたい。
焼き切れそうな理性で抑え付けた衝動を嘲笑うかの如く、キルと呼ばれたミルに胸部を叩かれる。
ミルを守れるのは自分だ、と牽制された気がした。
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