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二章:訪れた変化
神父の場合 02
しおりを挟む街に移った時に、ミルを神父見習いにした。
彼の辛い経験を生かして、人々を救って貰いたいとの想いだった。
現に、ミルは優しい少年で、困っている人を放ってはおけない、そういった人間であった。
そんな矢先に、私は悪魔のような子供と出逢う。
彼の名は、フィン。
この地域には珍しい黒髪に黒目、黄色(おうしょく)の肌。
彼は、信者の息子だった。
彼の両親から相談を受け、フィンと二人で話すことにしたのだが、この時から私は危惧するようになる。
フィンは私の息子に似ていたのだ。
容姿でも性格でもなく、その異常性が、である。
私が救うことの出来なかった息子と似たような台詞を吐くフィンに、私は言葉を失ってしまう。
顔は青ざめていたことだろう。
珍しく私は取り乱していた。
いつもならば、何かしらの言葉を掛けると言うのに、この時ばかりは何も言えなかった。
要らない人間などいないんだ、と幾ら諭したところで、彼の心の闇は救えないと、痛い程に理解していたのだ。
私の息子は、同性愛者であった。
幼い頃は聡明で明るく朗らかな子供だったのだが、宗教に於いて非人道的とされる思想を持っていることに、一人で悩み続けていたのだろう。
年を追う毎に、息子は少しずつ可笑しくなっていった。
最初は己の存在を否定したりとやけにネガティブになり、それは段々と酷くなった。
息子が成人する頃には、幻覚や幻聴、そして有り得ない妄想、特に被害妄想が酷く、徘徊なども目立つようになっていた。
ある時は色に執着し、赤はダメだ黄色はイイ、などと訳の解らないことを叫び、ダメな色の物を手当たり次第に投げ付けた。
ある時は隣人を悪魔だと罵り、その家の前に煉瓦を並べ始め、呪詛の言葉を呟いていた。
宗教の者は、悪魔憑きだと口々に宣い、エクソシストを寄越したが、成果はなかった。
ただ一人だけ、息子は悪魔などと言う非科学的なものではなく、精神病に冒されているのだと訴えた人間がいた。
それは、息子の恋人であり、医療関係に従事している者だった。
お前等が僕達を人間として認めないからこうなったんだ、と彼は声高々に叫び、献身的に息子を看病してくれたのだ。
しかしながら、その頃の私はと言えば、厳格な神父を気取っていた。
彼等を信じようとはせず、たった一人の家族すら信じず、私は直接会ったこともない上の人間の言葉を信じた。
息子を酷く詰ったのを、未だに覚えている。
あれが息子との最期の想い出になるとも思わず、私は力の限りに息子を悪魔憑きと罵ってしまったのだ。
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