上 下
22 / 59
一章:恋に堕ちた悪魔の子

看病をする場合 03

しおりを挟む


優しく丁寧に、ミルの肩を撫でた。
ミルは僅かな動きで首を振る。
否定したいようだ。

「ちがっ……ぅ。フィン、く、んは……ぼ、っくと、同じ、だから。まも、りた……い」

ぐっ、と俺の袖を引っ張るミルの目は、潤んでいた。
其れが、熱によるものなのか、想いが昂ってなのかは、俺には解らなかった。

「全然、違うよ。俺とお兄さん、何処が一緒なの?」
「ミ、ル……です。名前、で、呼んで、下さい。ぼく、は……異端児、なんで、す」

苦しそうに顔を歪めながらも、ミルは必死で訴えてくる。
が、俺は納得出来なかった。

「ミルは、異端児じゃないよ。髪だって、瞳だって、皆とおんなじだ!」

肩に置いた手が、上に移動し、ミルの髪を掴んでいた。
感情が昂って止まらない。
俺は髪を引っ張った。


 ミルの顔が苦痛で歪む。
それでもミルは、微笑もうとした。
苦痛の中での笑みはぎこちなかった。
だが、酷く胸を打たれるのだった。

「ぼっ、くは……ころっ、して、しまった……のです。と、うさん、と、かあ、さんを」

ミルの口が、ゆっくりと動いていく。
言葉の意味を、理解出来なかった。
俺はミルの髪から手を離す。
彼の肩を持ち、顔を近付けた。
ミルの微笑みは、もうなくて、涙を堪えるようにして歪んでいた。


 堪らなかった。
俺はミルの首元に顔を埋めて、彼の華奢過ぎる体を抱き締める。

「どういう、こと?」
「にじゅ、う、人格、だったの、です。ぼく、は……親から、ぎゃくた、いを、受けて、いたらしい、のです。ぼ、くの、中に、いた、別の人間、が……耐え、きれな、くて、殺して、しまった、のです」

ミルの体は震えていた。
俺は力の限りミルを抱く。
ミルの腕が、背中に回ったのか、感触を感じた。

「し、んぷ、さまが。じんか、く、を、統合、して下さって。ぼく、の中に、その時、の、記憶、が、あります」

ミルは震える体で話を続けた。
背中に回された手が、俺の頭に移ってきた。
ぽんぽん、とあやすように叩かれる。


 子供扱いのようで嫌でもあったし、その反面、心が温かくなる感覚が嬉しくもあった。

「ミル。ミル。ねえ、ミル。愛しても良い? 俺でも、愛することが許される? もし許されるのなら、俺は、ミルを愛したいよ」
「ど、うせい、あいは、冒涜、になり、ます。僕は、君を守りたい、けど。受け入れることは、出来ません」

ふるふると、首を横に動かすミルは、それでも俺の腕から逃げようともしない。
俺の髪に指を絡めている様は、まるで恋人同士の戯れだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

【完結】王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。──BL短編集──

櫻坂 真紀
BL
【王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。】 元ショタの美形愛弟子×婚約破棄された出戻り魔法使いのお話、完結しました。 1万文字前後のBL短編集です。 規約の改定に伴い、過去の作品をまとめました。 暫く作品を書く予定はないので、ここで一旦完結します。 (もしまた書くなら、新しく短編集を作ると思います。)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...