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一章:恋に堕ちた悪魔の子
倒れた場合 01
しおりを挟む【倒れた場合】
体が熱い。
意識が朦朧とする。
フィンの母親と話している途中で、僕は意識を失ったようだ。
雨に打たれたからか、ずっとダルいなとは思っていたのだが、此処まで酷くなるとは、想定外である。
僕の意識は、一番行ってはならない場所に行ってしまったようだ。
過去の記憶が夢のように過っていく。
夢ではあるのだろう。
僕の中に、違う人間がいた頃の記憶だ。
神父様に救われて教会に来る前、僕は此処とは別の街に住んでいた。
何不自由なく幸せに生きていたと、そう僕は思い込んでいた。
僕の記憶には、美しい思い出だけがあるのだ。
だが、錯覚に過ぎなかったのだ。
辛いことに蓋をして、見ようとはしなかった。
その結果、僕の中で違う人格が現れたのだと、全てが終わった後に知った。
僕は、両親から酷く嫌われていたようなのだ。
肉体的に、精神的に、僕は追い込まれていたらしい。
僕の記憶にはない。
しかし、人格を統合した際に、その記憶は僕の中に鮮やかに舞い降りて、滅茶苦茶にしていった。
その時の、僕ではない人間の記憶が、僕に還元された時、僕は酷く無力感と罪悪感に襲われた。
僕は、人を殺したのだ――。
あの日、気付けば警察署にいた。
時々、記憶が抜け落ちていることには気付いていた。
この時も、僕の最後の記憶は、自分の部屋の中だったのだ。
何故警察署に身を置いているのか、さっぱり検討も付かない。
「ミル君? ミル君だね?」
「こっ、此処、何処です……か?」
僕は目の前にいる人間に、解り切っている質問を投げ掛ける。
明らかに、取り調べ室だ。
警察署以外のなんだと言うのか。
しかし、目の前の男性は、警察官ではないようだった。
男性は、30代半ばの恰幅の良い、大柄な人だ。
デスク上の頼り無い灯りで窺えるのは、聖職者らしき服装だということ。
神父だろうか。
「ああ、警察署だよ。安心して。私は神父をしているブランだ」
彼は、僕に微笑みを向けた。
怯えている僕を落ち着かせようとしたのだろう。
「何で、そんな所に? 僕、何にも覚えていないのですが、何かしたのでしょうか?」
不安になり身を縮こませ俯いた。
肩に重みが掛かった。
神父の手が、置かれている。
そろり、と目線を上げると、彼の目とぶつかった。
とても優しい目だ。
僕は何故だか目を離せなくなる。
「落ち着いて、ミル君。君は、何も知らない。そうだね? やはり、そういうことのようだ」
一人で納得している神父に、僕は疑問符を浮かべるしか出来ない。
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