上 下
11 / 59
一章:恋に堕ちた悪魔の子

家出騒動の場合 03

しおりを挟む


普段はあまり人の通らない、ひっそりとした場所で、周りには民家もないようだった。


 広いスペースが縮まって、道路と融合する一寸(ちょっと)手前のところに、フィンはいた。
ガードレールに凭れ掛かり座っている。
すっかりと雨に濡れ、びしょ濡れである。
表情は暗いのも手伝って、見ることが出来ない。

「フィ、フィン、くっ、ん! み、見つ、けた!」

 思った以上に体力を消耗したようで、思うように言葉が出て来ない。
僕はフィンに駆け寄り、しゃがみ込んで彼と同じ目線になると、彼を抱き締めた。
彼の首筋に顔を埋める。


 嫌な匂いが、鼻に着く。
鉄のような匂いだ。
怪我をしているのか、と思い、急いで体を放す。

「なに、しに来た? 俺のことなんか、放っておいてよ」

フィンは俯いて、此方を見ようともしない。
雨で貼り付いた前髪を流してあげれば、彼の目は焦点が定まっていなかった。
安心させようと、両肩に手を置いた。

「探しに、来ました。何処か怪我をされているのですか? 血の匂いが」
「殺したんだよ。お前もこうなりたくなかったら、どっか行け」

します、と続く筈だった語尾は、悲しくも掻き消されてしまう。
フィンは僕の腕を払い、膝を抱えて顔を埋めてしまう。
ランタンの灯りを翳すと、フィンの横には、ネコの無惨な死骸が転がっていた。
仔猫なのだろう、まだ小さな体は、お腹を裂かれ、中からは腸(はらわた)が飛び出している。
よくよく見れば、辺り一面、雨ではない色々な液体でまみれていた。
小刀だろうか、刃物も所在なく転がっている。


 僕は目を背けてしまう。
動悸が速くなる。
目の前が霞んだ。
何と言うことだろうか。
僕は、何も救えなかったのだ。
フィンの心も、この小さな命も。
嗚咽が溢れる。
鼻に纏わり着く血の匂いが、吐き気を誘った。


 うっぅ、と上体を地面に伏せながらも、体が路地に着かぬよう腕で押さえ、僕はみっともなく嘔吐した。
吐瀉物を水流となった雨が流していく。
フラッシュバックのように駆け抜けていく一つの映像が、僕の体を蝕んでいくようだった。

「お前も、俺といたらいつかこうなるよ。そうなる前に、逃げたら良いんだ。どうせ俺は、生まれてこなければ良かった存在だもの」

顔を上げないまま、淡々と告げるフィンに、感情は見られない。
僕は口許を手の甲で拭い、それをまた服で綺麗にすると、吐き気を抑えて上体を上げる。
腕を伸ばし、フィンの頭に手を置いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

処理中です...