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一章:偵察
はじめてのお仕事 03
しおりを挟む意味も無く名を呼んで違うのだと知る。
苗字ではなく「智如さん」と呼びたかった。
「俺、バカなんで迷惑とか沢山お掛けすると思うんすけど。……その、精一杯頑張ります。ダメなとことか教えて下さい」
自分よりも背の高い屈強な男を上目に見る。
綻んだ顔を、何歳も年上の男の笑顔を、可愛いと思ったのが何故かなど、淳志には皆目見当もつかなかった。
自宅前に辿り着くと、倉本の屋敷は何やら大騒ぎをしており、当主である倉本 純義(クラモト スミヨシ)と純が喪服に身を包み、何人かの構成員を引き連れ黒塗りのベンツに乗り込むところだった。
純義の顔には疲れが滲んでいたが、淳志に気付き笑みを深める。
極道の親分などしていなければ子煩悩な父親である純義は、昔から淳志に甘かった。
「おかえり、淳志。今から純と家を空ける。彩菜も今夜は帰らない。申し訳ないが適当にやっていてくれ。暫くは私も純も強もいない。何故かこんな時に限って刀次郎もいなくてな。気を付けなさい」
構成員の米田 強(ヨネダ ゴウ)は、愛くるしく華奢な見た目に反し、武芸に秀でており、負け知らずの強者である。
探偵の森 唯真(モリ タダマサ)が構成員だった頃から彼を慕い、森が組を抜けた後も二人の付き合いは続いていると聞く。
米田の左薬指の指輪は、森から贈られたものだという噂もある程に彼等の仲は深い。
普段から組長を護衛している米田は、例に漏れず今回も純義に張り付くらしい。
米田が家にいないと言うことは、セキュリティーがいつもよりも甘くなると言うことだった。
そして、跡取りの純につけている、純義からの信頼が一番厚い豆屶 刀次郎(マメナタ トウジロウ)は、当主の知らぬところで静岡まで潜入捜査に出掛け数日が経っている。
何処かのお偉いさんでも亡くなったのだろう、と暢気に頷く淳志の頭を撫で、純義は車内にと消えていく。
純も父の後に続き車に乗り込もうとして、ふと淳志に視線を投げた。
儚げに細められた双眸に、慣れない人間ならば一瞬で心を奪われてしまっただろう。
美しく可憐な純の容貌は、いつ見ても心臓に悪い。
「電話には出られそうにないからメールかLINEで連絡してね。特に何かする必要はないよ。動きがあれば教えて」
淳志の肩を一度叩いて車中にと乗った純からの命令だけが頭の中でリフレインする。
扉を閉めた運転手が運転席にと移動し、車体が見えなくなるまで淳志はその場に立ち尽くしていた。
* * * * * *
初仕事の始まる月曜の朝早くに純と彩菜が帰ってきた。
相も変わらずに得体の知れない親子である。
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