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一章:偵察
神沼さん家の事情 22
しおりを挟むぐぐぐっ、と両腕を天に向かい伸ばしていき、背筋をピンと張る。
これと言って目星い収穫はなかった。
「じゅんじゅんに報告しないとな」
憂鬱な気分を払拭させようと頬を両手で叩く。
いつでも長兄への恐怖は薄れていかない。
常に彼の異常さに囚われている。
畏怖の中に混じる憧憬は植え付けられたものなのか、はたまた純粋な想いなのか、淳志自身にも解りそうにはなかった。
掌に忍ばせたスマホを操作してダイヤル画面を呼び出した。
* * * * * *
24年の人生ではじめて書いた履歴書を握り締め、淳志はとある建物の前で立ち尽くす。
古ぼけた外観の工場からは機械の動く音が響いてくる。
淳志の報告を聞いた純から与えられた使命は、明紫亜を預かっている智如の仕事場への潜入だった。
静岡での潜入捜査も続行すると聞いた。
明らかに明紫亜を拒んでいた冷たい態度も、視点を変えてみれば愛があるから、とも捉えられると純は言う。
淳志には愛がない可能性しか見えはしないが、長兄には別の可能性が見えているようだった。
「考えてご覧よ、アツシくん。今まで一度も愛を抱いたことのない人間にある日突然、愛しい、という感情が湧いたとしたらさ。戸惑うでしょ? 司破くんは逃げるのが好きだからね。遠ざけようとしてもおかしくはない。まあ、気紛れか飽きたか、そもそも愛なんてなかったか。今の段階で判断を下すのはまだ早いと思うんだよ。本当はその後の動向も探って欲しかったけど。電話に出れなかった僕も悪いから、今回はお仕置き、多目に見てあげるね」
昨日の電話越しの声を思い出して溜息を吐き出す。
淳志には純のことも司破のことも理解出来そうにはない。
まともな恋愛などしたことはないが、愛しいと想える人に逢えたなら、淳志ならば大事に大切にして傍を離れたくないと思う。
もう独りになるのは嫌だった。
愛し愛されるだけの平凡な幸せでいい。
隣にいて共に幸せを共有出来たなら、それだけで良かった。
もう一度、大きく息を吐き出し、野良猫の鳴き声をBGMに、昼の陽射しを照明にして、錆びた持ち手の扉に手を掛けた。
「すんませーん!」
引戸を横に引きながら声を掛けると、バンダナを頭に巻いている人や、ニット帽を被っている人の視線が、一斉に淳志にと集まる。
奥から慌てた様子でやって来る大柄な男には見覚えがあった。
森の報告書で見た智如だ。
「どうしました?」
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