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一章:偵察
神沼さん家の事情 21
しおりを挟む辿り着いた思い付きのような答えを呆然と呟き、淳志は髪をガシガシと掻いた。
「紛らわしい愛称つけんなよな。メアたんのつける愛称、意味不明だし。叔母さんの愛称がユキちゃんとか、もろ苗字じゃん。おばちゃんもそうだけどさ。流石に叔母さんの愛称に苗字は使わないだろ。メアたん変過ぎでマジウケるわ」
ブツブツと独り言を口内で転がし、動画を再生する。
司破の無機質な相槌が返され、目を開けた明紫亜はスマホを手中に収め、指を滑らせながら口を開く。
残念なことにスマホの画面までは確認出来ない。
「僕、オムライスが好きなんですよ。卵の黄色は幸せの色。ケチャップの赤色は愛の色。だから、オムライスを食べたら、幸せと愛で一杯になるって、そう教えてくれた人がいるんです。僕はその人のことを一番大事に想っているし、誰よりも大好きです。ねえ、先生。大事と好きって、一緒なのかな? それとも、違うのかな? 僕、解らないんです」
柔く微笑んでいる癖に、何故だろうか、少年の醸す雰囲気は哀しそうだ。
一番大事で誰よりも好きな人。
それが司破ではないのだと告げる明紫亜の視線はスマホに固定されたまま動かない。
恐らく、明紫亜の中での一番は叔母の涼子だ。
彼女のことを言っているのだと察しはついた。
少し前の情景を思い出して溜息が飛び出していく。
先程も感じたが、本当に司破のことが好きなのだろうか。
司破への想いが見えて来ない。
信頼はしているのだろう。
それでも、明紫亜の中には叔母しかいないように思えてしまう。
司破も司破で、LINEまで始めたと言うのに彼に対する態度は素っ気ない。
「同じ意味で使う時もあるだろうし、違う意味で使う時もあるだろうし、状況によるんじゃねぇか? 神沼に解らないなら、俺にだって解らねぇよ」
ハンドルを握る司破の視線も前にだけ向いている。
互いに交らわない目線が二人の関係を示しているようだった。
けれども、あまりに司破が素っ気ないからか、少年の頬が、ぷくり、と膨らむ。
何を言うでもなく面白くなさそうに無言でスマホの画面を弄っている。
何やら真剣な顔で文章を作成しているようだ。
「先生は大人ですね。羨ましいな」
数分もしない内にスマホが膝の上に置かれ、少年の視線が司破を捉えた。
司破は変わらない無表情で、何を考えているのかさっぱり見当もつかない。
その後は、マンションの駐車場に辿り着くまで、二人が話すことはなかった。
長い時間ではないが沈黙の流れる車中を思うと背中がゾワリとする。
その場にいたら居心地は最悪だっただろう。
車を降りたところで停止する。
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