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一章:偵察
神沼さん家の事情 20
しおりを挟む「かーわいそうに。フラレて傷心帰宅、と。うーん、大事にしてると思ったんだけどなあ。司破ちゃん、紛らわしい。じゅんじゅんに怒られんの俺なんだけど?」
内心の戸惑いはひた隠しにブツブツと文句を口に乗せる。
淳志は階段付近からマンションの裏側に戻り、イヤホンを着け直した。
ノイズの音しかしない状態が続いていたが、暫くして溜息を吐き出す音と共に移動する物音が聞こえてくる。
数分して戻ってきた司破は、バタン、と何かを開けた。
『あー、くそ。買い出し行かねぇと』
小さく聞こえた呟きに、キッチンで冷蔵庫を確認しているのだと知れる。
その後、司破がマンションを出てスーパーのある方角に向かって行くのを確認し、淳志はイヤホンを仕舞った。
駐車場に赴いて仕込んであった盗撮カメラを新しいものと替え、取り外したカメラを仕舞いながらスマホを取り出す。
純に電話をかけたが繋がらなかった。
淳志の足は倉本の本宅にと向かって行くのだった。
* * * * * *
自分の部屋に籠もると淳志はパソコンを起ち上げ、回収したカメラのデータを確認する作業を始める。
車に乗っただろう時間を逆算して計算し、割り出した時刻を指定して動画を確認した。
キノコ頭の高校生。
先程、階段から落ちていた少年が車に乗り込むところを探し出し、その前後から動画を再生する。
助手席に乗り込んだ明紫亜は膝にスマホを置き、開口一番、司破に謝罪を入れていた。
「今日は、無理言ってごめんなさい」
俯いた彼から放たれた言葉は小さなものだった。
表情はよく見えない。
司破の眉間には皺が寄り、強面が一層に怖くなっている。
「今日だけ、だぞ」
低音で一言だけ告げた司破は車を発進させたようだった。
少年が無理を言って司破の家に押し掛けることになったのだろう。
想像していたような甘い雰囲気など欠片もなかった。
「神沼、荷物は?」
ふと司破が明紫亜に問い掛ける。
確かに彼は手ぶらだ。
ハンドルを切る司破の視線から逃れるように明紫亜の目蓋は綴じていく。
その顔には柔い笑みが浮かんでいた。
「おばちゃんが持って行ってくれました」
おばちゃん、が誰なのか解らずにフリーズした淳志は一時停止を押し、パソコンの液晶画面を凝視して考え込む。
叔母の涼子は静岡にいる筈で、東京に来ているという報告も受けていない。
森の報告で他に明紫亜から「おばちゃん」と呼ばれるような人間は思い当たらなかった。
「誰だよ、おばちゃん。おばちゃん。荷物。おば……っ! あー、オバタだからおばちゃんか?」
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