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一章:偵察
神沼さん家の事情 14
しおりを挟む逃げたいと思ったことは、数え切れない程にある。
その度に恐怖を思い出すのだ。
純に逆らえばどうなるのか、体が一番解っている。
痛みも屈辱も全て、覚えていた。
長兄への恐怖が募れば募る程に、司破への憤りは強くなる。
よっ、と掛け声と共に体を起こし立ち上がった。
めんどくせぇなー、と独りごちて部屋を後にした。
* * * * * *
あの後、淳志は私立探偵の森から提出されていた書類から小畑の勤務先を調べ、工場の近辺で聞き込みをしたが、これと言って目ぼしい情報も得られずに、純が帰宅するだろう時間に倉本の本宅にと帰宅した。
廊下で風呂上がりの純とばったりと会い、首から掛けたバスタオルで髪を拭いている長兄に報告を入れる。
想像はしていたのだろう、特に詰られることもなく安堵する淳志に純が微笑み掛けた。
「ご苦労様だったね、アツシくん。明日、オリエンテーションから帰ってくるでしょ? 盗聴器とカメラ、監視宜しく頼んだよ。取り敢えず、何があってもまだ動かないで、報告だけしてね」
純の瞳が細まり柔い笑みが口元には浮かんでいる。
儚い雰囲気を醸し出している彼の頭の中では、如何に次兄を追い詰め痛め付け己の言いなりにさせるかの計算がされているのだろう。
愉しそうに吐息を漏らす様は、綺麗であればあるだけ、淳志に恐怖を齎した。
「あ、それから。さっき女教師から報告があってね。やっぱり、司破くんとメシアくん、学校が始まる前に知り合っていたみたいだよ。そこまで親しい訳でもない顔見知り、なんだって。それでさ、ここ最近の司破くんの動向、成屋さんに調査依頼したんだ。メシアくんは地元から出ていないことが確認取れているから、そうなると、司破くんが中部地方に行った際に出逢ったと、そう考えるのが自然でしょ。車に着けてあるGPS、多分まだ気付かれていないと思うんだよね。明日辺り、成屋さんにデータ渡してくれるかな? まあ、車以外で行っている可能性も高いんだけど、そっちも成屋さんに頼んであるし、取り敢えずアツシくんはGPSのデータを整理して成屋さんに提出すること。監視と並行してやるんだよ?」
ふわり、と微笑むその顔は、どこか脆く繊細に見える。
それでも有無を言わせぬ圧力が淳志にのし掛かる。
長々と述べられていく言葉に無表情で頷いた。
私立探偵の森(モリ)以外にも、情報を集めてくる人間は多い。
成屋(ナリヤ)もその内の一人で、警察関係者である。
そのため、行動を割り出す調査には打ってつけの人間なのだ。
考えてみれば、小畑の調査を淳志にさせる必要があったのだろうか。
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