みおそてぃす

一章：偵察

神沼さん家の事情 03

今までは月に一度、会うかどうかだった純の本質を、一緒に住み始めてから身を以て知ることになってしまうのだった（詳しくは「あうとれいじ」にて書く予定です）。
何にしても、14歳の淳志を襲った衝撃は大きく、純への恐怖は体と心に深く刻まれ、彼に忠誠を誓うことで淳志は何とか身を守ってきたのだ。


　そして、極道見習いになってから８年が経った４月の初めのことである。
組長と彩菜は、淳志が極道になることには反対で、いつまでも見習いのままの現状にムシャクシャしていた時だ。
純と彼の側近の豆屶（マメナタ）に、仕事が出来ないからいつまでも見習いなんだ、とバカにされ、面白くない気持ちを司破弄りで発散させようと、数ヵ月前に住居を変えた彼のマンションに赴いた。


　司破は、純に見付かる度に、仕事を変え、引っ越していた。
その度に淳志は、純の命令で司破の居場所と新しい仕事先を探らされるのだ。
純が司破と淳志に執着する理由は知らないが、彩菜は家族をとても大事にしていた。
寧ろ、家族にしかその優しさを向けることはない。
その為か、純もまた家族には並々ならぬ執着心を抱いているようだった。
それは倉本の家に暮らす構成員を含めた話である。
淳志とて、純からどんなに酷い扱いを受けても、最終的には淳志の願いを聞き入れてくれる純のことを、心の奥底から嫌うことなど出来ないのだ。


　もうすっかりと暗くなり、マンションの廊下を電灯の灯りが照らしている。
駐車場には、司破の使っている黒塗りのベンツはなかった。
あの高級車は、倉本の当主が数年前に彼の誕生日にと贈ったプレゼントである。
父親らしいことをしたいと、組長は純と淳志にも毎年プレゼントを用意してくれていた。


　留守の可能性を頭の片隅に、淳志はそれでも階段を上がっていく。
司破の部屋の前で立ち止まり、インターホンを押した。
案の定、返答はなく、軽く舌打ちをし、扉に背中を預けると、ズルズルとしゃがみ込んだ。


　司破と言う男は、嫌味なぐらいに何でも持っていた。
その癖して、何も感じることがないのだろう、感情と言うものに見放されているようだった。
淳志は彼を見ていると、生きていて楽しいのか、といつも同じ疑問を抱いてしまう。
背も高く運動も出来る。
教免を取れる程には頭も悪くない。
家は大富豪で金に困ったこともない。
綺麗で可愛らしい母親もいる。
それなのに、ニコリとも笑うことがない。
誰もが手にしたいと望んでも無理なもの全てを手にしていながら、彼はそれに気付いていないのだ。