あべらちお

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係(勉強合宿編)21

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腰に手を当て仁王立ちしている涙夏の体躯がしゃがんだと思った時には耳元で「俺以外とイチャつくな」と囁かれていた。
矢張り、男子からの視線を感じ耳を押さえつつもクラスメイトの男子を見る。

「ルイカ! 変な目で見られるから、やめろって。離れて、近いよ!」

ニヤけるのを必死で堪えているような口元を手で隠し彼等は自分の作業にと戻っていくが、確実に勘違いされている。

「見せてやればいいじゃん。キザシのお仲間だし害はないだろ。……委員長、火の番は頼んだぞ?」

はは、と暢気に笑い立ち上がった涙夏に手首を引っ張られ、身体が持ち上がった。
義一郎に「ヨロシク」と告げて明紫亜を立たせる涙夏に、曇った眼鏡を向けて義一郎は頷く。

「うん、任せてよ。メシア、涙夏君と飯盒持ってきて?」

ほわほわ、と笑っている義一郎を見てしまうと、どうにも場が和む。
むぐう、と涙夏への文句は唸り声にと代わり、渋々と頷いた。


 涙夏と並んで水場に歩いて行くと隣の調理場で女子達が具材を切っているのが目に入る。
愛弥の手際が良くて他の班の女子も彼女の周りに集まり、キャッキャッ、と色めき立っていた。

「すっごーい、萌さん! 料理得意なの?」

玉葱を刻んでいる愛弥は、にへら、と弛く笑っている。

「自分のことは自分で出来るように育てられたんだよねー。いつ何があっても一人で生きていけるように? 親に感謝!」

聞こえてきた台詞に、ふおお、と思わず感嘆の声を上げてしまう。
涙夏が笑いを堪えるように唇を歪ませている。

「アミちゃんは凄いなあ。僕も最近、料理を教わっているんだけど。てんで駄目だもん。ルイカは料理出来る?」

くふり、と笑顔を隣に向けると、彼は目を細めて頷いた。
愛しそうに明紫亜を見てくるので、どうしていいのか解らずに、そっ、と目線を外す。

「まあな。俺も一通りのことは出来るように育てられたから。ねえ、メシア。俺に何か作ってよ。メシアの手料理食べたい」

ぐっ、と腕を掴まれ、涙夏との距離が縮まる。
彼の真剣な眼差しがいつも怖い。
自分に向けられる視線が意味も解らずに恐ろしい。
それと同じだけ嬉しくもなる。
涙夏だけは見てくれている、と思ってしまうのは異常な気がした。
上から見下ろしてくる瞳を下から見詰め、首を傾ける。

「うーん。上手になったら?」

曖昧に答えてはにかんだ。
明紫亜の中に入り込もうとする涙夏を嫌いにはなれないが、今すぐに受け入れることも出来ない。
彼の執着には恐怖すら覚えてしまう。

「何だったら俺が教えるけど」
「料理上手な同居人がいるから大丈夫」
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