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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係(勉強合宿編)11
しおりを挟む目の前までやって来た彼に微笑み掛けると、義一郎は顔を真っ赤にさせ俯いた。
「た、ただいま、メシア。大丈夫だった?」
そっ、と髪を撫でられる。
優しい触れ方と慈しむ眼差しに、くふくふ、と笑い声が漏れ出てしまう。
義一郎のことが好きで堪らない。
「うん、大丈夫」
「そっか。移動するから準備しててね。僕、皆に伝えてくるから」
髪を撫でてくれる繊細な手に掌を重ね首肯すれば、彼は安堵の息を吐き出し双眸を細めた。
後ろで「ギーチンとメアって、百合っぽいよね」と愛弥が詩音と輪に言っているのが聞こえてきたが、聞かなかったことにする。
相手にしていたら明紫亜の身が保ちそうになかった。
明紫亜から離れた義一郎が班長を集合させるのを横目にリュックを背負う。
隣では涙夏も立ち上がり支度をしていた。
後ろの女子も腐女子談義に花を咲かせつつ荷物を纏めている。
A組から移動し始め、視界の端で生徒達が正門に向かうのを眺めていた。
列の最後にジャージ姿の司破を見付け、思わず「ふんぎゅ!」と奇声を発してしまう。
一番先頭に立っている担任の丸井(マルイ)は、ぼんやり、と空を見上げていて気付いていないようだった。
隣の涙夏は口元を押さえ肩を震わせている。
前にいる義一郎が振り向き明紫亜を見詰めてくる。
目で「大丈夫?」と聞かれた気がした。
「ごめん、変な声が出ちゃった、テヘっ!」
ぺろ、と舌を覗かせ、こつん、と拳を額に宛てる。
ぶりっ子ぶって誤魔化そうとしたのだが、涙夏は更に体躯を揺らし苦しそうに笑いを堪えていた。
義一郎に至っては、こつり、と明紫亜の額に額を押し当て「熱はなさそうだね」と真顔で心配してくれている。
「……うん、大丈夫。正常です。大丈夫」
真面目な義一郎に何とも切なくなり何度もコクコクと頷いてみせた。
そうこうしている内にB組の副担任が移動していくのが見え、担任が歩き始める。
丸井の後ろに続く義一郎の背を追い掛けた。
正門前に停められているマイクロバスの三台目の車体に荷物を詰め込んでいく。
バスの中で使う物を纏めた肩掛け鞄を手に車にと乗り込み、予(あらかじ)め決めてある座席にと座った。
明紫亜は義一郎と一番前の左側の席である。
後ろに愛弥と涙夏、一番前の右側に詩音と輪がいる。
事前の話し合いで窓側の席を譲って貰った明紫亜はルンルン気分で鼻歌を口ずさみながらシートベルトを締め窓ガラスに張り付き額を、ぴとり、と当てた。
「気分が悪くなったらすぐに声掛けて。瀬名先生からエチケット袋たくさん貰っておいたから」
義一郎は優しい男だった。
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