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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係(勉強合宿編)09
しおりを挟む涙夏を傷付けている事実が明紫亜の内部を圧迫していく。
顔を伏せていて良かった、と更に強く膝小僧に額を擦り合わせた。
彼の顔を見てしまえば酷く揺れてしまうだろう。
「いつか雪代の人間の愛も、彼奴の愛も、誰のことも信じられなくなる時がやってくる。自分の存在を呪い尽くしても足りないぐらいに自分を殺したくなる時が必ずやってくる。誰の言葉も聞き入れられないぐらいに絶望してしまう日がくるよ。なあ、メシア。たとえお前が俺以外の奴と結婚したとしても、俺達の絆は一生消えないから。この世でメシアの理解者は俺だけだから。どんな状況でも俺はメシアを守るよ。忘れないで、俺達は繋がっているってこと」
耳元で囁かれた内容に思わず顔を上げてしまう。
いつもの束縛や独占とも違う、どこか予言めいて聞こえるものだった。
瞬いた眼に無表情の涙夏が映り、どう返していいのか解らずに息を呑み込んだ。
「ルイカ狡い。何も教えてくれない癖に」
ぷくん、と頬を膨らませ睨み付けた。
はは、と声を出して笑う涙夏にキノコヘアーを乱される。
「男はズルい生き物なんだよ。何かあった時の予防線になるかなあ、と。これでもギリギリのところでヒントをあげているんだよ。俺は俺の意志では生きていないからさ。教えられたら楽なのにな」
疑問が強く湧き上がり「え」と口から音が漏れ出ていた。
双眸を細めて明紫亜を見ている涙夏の瞳は諦観を湛えている。
「どういうこと? ルイカのものになったら教えるって。最初、教えるつもりでいたって言ってたじゃん」
涙夏に触れるようになった時の会話を思い出し混乱してしまう。
その上、何かに縛られて身動き取れない状況にあるような発言に胸がざわつく。
保健室で聞いた話と合わせて考えるならば、彼を縛っているものと明紫亜との間には何か関係があるのだ。
「言葉の綾だよ、アヤ。本当に教えるつもりがあればとっくに教えてる。ごめんな、メシア」
何もかも全てを諦めた何も求めていない暗い目で渇いた微笑を浮かべる涙夏の掌が頬に落ちてくる。
目尻を辿る指を掴んでいた。
「ル、ルイカは」
何を聞けば良いのか解らなかった。
それでも何かを問わなくてはならない衝動に駆られてしまう。
言葉の続かない明紫亜の顔を覗き込んでくる涙夏は静かに笑っていた。
聞かないで、とその瞳に言われた気がして握り締めた彼の指を離す。
「メシアを笑顔にしたくてずっと生きてきたから、今すごく幸せなんだよ。後には絶望しかないと解っていても耐えられるぐらい毎日が充実してる。メシアと一緒に過ごせて漸く生きてるんだって実感湧いた」
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