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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 118
しおりを挟むあう、と明紫亜の口から戸惑いが漏れる。
何度も瞬き、司破を見て、ケーキに視線を流し、結局彼は首を横に振りたくる。
勢いよく振られる様に苦笑を零した司破の手がチーズケーキに伸びた。
「ならいい。……ケーキ、買いに行った時、何ともなかったか?」
一口サイズに掬われた生地が司破の口元まで運ばれていく。
それを目で追いつつ明紫亜の首が縦に揺れる。
「大丈夫、でした。怖かったけど。司破さんが喜んでくれること考えたら、頑張れた」
ボソボソ、と小さな音量ではあったが、司破の耳にしっかりと届く。
ぱくり、とフォークごと口に入れ咀嚼した。
「頑張ったな。ありがとう」
自然と口を出る感謝の言葉は、今まで青年が口にすることなど滅多になかったものだ。
身の回りの世話はして貰って当然という環境で育った。
祖父母からも母からも愛され、特殊ではあれ、父の家の人間にも愛を示されてきた。
満たされていても何も感じることもなく生きてきた。
父の存在を知らず、母からの愛を受けることもなく、逆に虐げられ、己の生を呪われた明紫亜は、愛を拒み、幸せを罪だと感じて生きている。
真逆であるのに、少年にとって司破の存在は近いものだった。
嵌り合う存在を知って明紫亜の世界は色を変えた。
「おいし、ですか? あ、あの、あの。要らないかもだけど。コレ、貰って欲しい、です」
急に立ち上がり、床に転がる制服を漁り出した明紫亜が司破の目の前に立ち、綺麗にラッピングされている箱をオズオズと差し出してくる。
「僕、そんなにお金持ってないし、司破さんは色んな物を持ってるだろうし。貰っても嬉しくないかもだけど。それ見て僕のこと思い出してくれたら嬉しいな、って。……お、重たくてごめんなさい」
受け取った箱を開けると中にはボールペンが一本入っていた。
ノック部分に明紫亜のLINEでアイコンに使われているマッシュルームが着いていて、動く度にキノコが左右に揺れる。
肩を落としてシュンとしている明紫亜に、普段の馬鹿みたいな明るさはない。
彼の根本は、何方かと言えばネガティブなのだろう。
「何が重いんだよ? いちいち謝るな、馬鹿キノコ。メシアに貰える物は何でも嬉しいよ。大体、思い出してくれたら、って。別れもしない内から離れ離れになるみたいな妄想はやめろ。縁起悪いだろ。大事に使う。コイツ、動きがお前そっくりで笑えるわ。学校には持っていけないな」
ボールペンをローテーブルの上に置き、少年の両手首を掴む。
ぐい、と引き寄せて自分の膝の上にと座らせた。
啄むだけの口付けを繰り返し、明紫亜の頬を撫でていく。
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