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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 116
しおりを挟む両頬を包み込まれ上向かせられる。
暗闇に慣れた目に、薄っすらと司破の顔が映った。
慈愛に満ちた眼差しが向けられている。
指先が濡れた頬を拭ってくれる。
暗い中でなければ見ることもない司破の表情だろう。
明紫亜にしか向けられることのないものだ。
「ちゃんと祝福されて結婚するんだろ? 安心しろ。お前には死ぬ程の幸せをくれてやる。お前が悩むことは一つもない」
こつん、と額と額がぶつかり、目の前に司破の双眸がある。
包み込むような温かな瞳に、また涙が零れる。
「もっ、……っ、ぇぅ、っ、ぅぇ、っ、っっ、ぁぅぅ、もっ、……す、き。すき。すき。離れたくないよ。ずっと、ずっと、一緒、いたい」
ぐずぐず、と鼻を鳴らして幼子みたいに泣きじゃくってしまう。
教師と生徒で、彼の家庭の事情もあり、自由に会うことも触れ合うことも出来ない。
物分かりの良い明紫亜でいたかった。
寂しくても、たまに会えるだけで大丈夫だと思い込もうとして、それを許してはくれない。
大人でいなくては、と背伸びすることを良しとはしてくれない。
どうあっても明紫亜の本音を引き出して子供であることを自覚させられてしまう。
酷い男だ、と思った。
明紫亜の何もかも、強がりでさえも奪い取っていく。
全てを捧げるとは言ったが、弱い自分など見せたくはなかった。
けれども、司破の前では身に纏った強がりも役には立たないのだ。
「司破さんは、狡いです。ズルいよ。こんなの、ひどい」
唇を尖らせて非難しつつも眼前の唇に口付け、頬に空気を溜める。
途端に睨み付けられ、負けじと「んべっ」と舌を出した。
「あ? 何がだよ。お前がぐるぐるしてんのが悪いんだろうが。お前に寂しい思いをさせてんのは悪いと思うがな。寂しいなら寂しいって言えばいいだろ。俺だって寂しいんだよ、馬鹿キノコ。狡くて酷いのはお互い様だ」
がり、と舌に歯を立てて司破は軽く笑う。
少年の肉を今度は優しく食(は)んで吸った。
「お前は無意識に人を誘うからな。色気もない餓鬼の癖に煽りやがる。それにお前は、杉木から離れられないんだろ? どんだけ俺に我慢させる気だ」
絡むことなく離れていく舌を追うように明紫亜の舌が伸びる。
むぐう、と唸り目線を逸らした明紫亜の口が悲しそうに開かれた。
「ルイカの体、傷だらけだった。親から受けた傷だって言ってた。望まれないで産まれた子供がどうなるか解るだろって。僕と似てる気がして。ルイカを拒むのすごく怖い。でも多分、僕のストーカーだ。僕のこと全部知ってた。怖いと思うのに嬉しかった。おかしいんだ、僕。変、なんです」
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