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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 115
しおりを挟む司破の手に抵抗する手首を掴まれ、無防備に晒された唇に彼の唇が、ふわり、と触れる。
軽く触れ合うだけの接吻に明紫亜の顔は、ぶわあ、と真っ赤になり「んぐぐ、ぐ、っ」と唸っていた。
「お前は本当に色気のない声ばかり出すよな。何でお前、そんないちいち面白いんだ? キノコの分際でムカつくんだよ」
すぐに離れた青年を茫然と眺めていると手が解放され、司破に抗議しようと開けた口からは「あがっ、が、うぅ」と痛みを堪える音が漏れる。
司破の指に額を弾かれた痛みに息をするのも忘れてしまう。
涙目で額を押さえ隣の男を睨もうとして、世界は真っ暗闇に包まれた。
か細い声で青年の名を呼んだ明紫亜の耳元に息が掛かり、近くに司破がいるのだと思うとひどく安堵してしまう。
「電気、つけますね」
体躯に回された司破の腕から抜け出そうと身を捩るも、更に強く抱き込まれていた。
逞しい青年の肉体は明紫亜に安心感をくれる。
離れ難くなり司破の背中に腕を回してしまう。
彼の肩口に額を押し付ける。
「お前は自分の過去が嫌いなのかもしれないが。確かに辛いことが多かったのかもしれないが。それでも過去があって今のメシアがいる事実に変わりはないだろ。俺は過去ごと全て愛しいと思う。どんな過去でも、お前が苦しんだことも辛かったことも悲しかったことも、全部共有したい。だから、重たいとか暗くなるとか、そんなことは気にしなくていい。メシアのペースで教えてくれ。焦らなくても大丈夫だ」
優しく頭を撫でながら告げられ、息が詰まった。
過去を話さなくては、と焦っていることを知られていることに、この男には隠し事が出来ないのだと思い知る。
暗くて見えないのなら、司破に縋っても許される気がした。
司破の前でなら、泣いても大丈夫だと思えてしまう。
込み上げてきた雫は司破の羽織るバスローブに吸い込まれていく。
ひう、と零れ落ちる声を止められずに震える体で司破に強くしがみつく。
「っ、ぼ、ぼく。ぼく。……っ、叔母さんに反対されるの、怖い。叔母さん、弁護士だから。司破さんのお父さんのこと知ったら、きっと反対されちゃう。少しでも反対される要素は減らしたくて。ちゃんと全部、言わなきゃ、って」
涙が次々に溢れ返り、しゃくり上げている間、司破の掌が背中を擦ってくれた。
少し落ち着いてきた頃に、包み隠さずに話すと、密着していた体躯が離される。
「なあ、メシア。それは一人で抱えることではないだろ? 不安なことはちゃんと言え。二人の問題は一緒に解決したい。大丈夫だ。反対されても認めて貰えるまで諦めないから。心配するな」
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