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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 112
しおりを挟む洗面所からドライヤーの音が聞こえ、司破も髪を乾かしているのだと知る。
ローテーブルの上に置き去りにされていたケーキの箱を開けながら、明紫亜は唇を尖らせた。
「僕も乾かすのに」
先程まで破廉恥だと悶えていたことなど棚に上げ、ぶつぶつと文句を垂れる。
あれほど激しく動いたのにも関わらず、箱の中のケーキが潰れていないことに安堵し、添えられているローソクを突き立てていく。
シンプルなチーズケーキは飾り気がない。
本当に何処にでもある普通のチーズケーキのワンカットである。
チョコプレートも用意していない。
きっと司破にとって大事なことは、飾り立てることではないのだ。
二人で祝うことに意味があり、余計なものなど要らないのではないか、と明紫亜には思えた。
「だって司破さん。絶対甘いの苦手だし。……どうしよう。ものすごい甘党だったら。チョイスミスじゃんか」
ちまちま、とローソクを立てつつも、ハッ、と洗面所を窺い、ぐぬぬぬぬ、と頭を抱える。
「何を身悶えてんだよ、変態キノコ。チーズケーキ、好きなのか?」
突然、背後から問い掛けられ「ぬおお、っ!」と声を上げてしまう。
苦笑を滲ませて隣に座った司破に、心臓がうるさく暴れ出す。
「あんまり甘ったるいのは苦手で。チーズケーキは好きです。でもあの。司破さんはもっと甘い方が良かったですか?」
俯き加減で、コクコク、と頷き、司破を上目で見遣る。
司破の眉間に皺が寄り、小さく首が横に揺れるのを見て明紫亜はホッと息を吐き出した。
「甘いのは好きでも嫌いでもない。この年になってケーキに拘りもない。まあ、昔から興味がなかったんだが。……メシアが俺の為に用意してくれたなら、何だって嬉しいよ」
どうしてだろう、と明紫亜は司破の肩に凭れながら目を瞑る。
この感情を言い表す言葉が解らなかった。
胸の奥から込み上げてくるのは、痛みも苦痛も含んだ甘くて熱い未知の感覚だ。
涙が出そうで出てはこない。
司破に齎されるものはいつでも明紫亜を戸惑わせる。
「……おめ、でと、っ、ござ、い、ます。僕は、司破さんに出逢えて、本当に、っ! ずっと、ずっと、わかんなかったの。どうして皆は、僕に幸せを与えようとするのか。わかりたくなかった。でも、司破さんに会って知ったんだ。……好きだから。愛してるから。幸せになって貰いたいんだね。一緒に幸せを分かち合いたいんだね。司破さんに出逢って、僕は本当に沢山のことを知りました。……僕、司破さんと一緒に幸せになりたいです。分かち合うなら司破さんとがいい。僕の幸せは、司破さんと共にあるんです」
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