あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 109

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逃げているようで逃げられていないことには全く気付いていなかった。
もっと弄り倒したくなってしまう司破ではあったが、悪戯する手を止め、細い体躯を腕に閉じ込めるに留める。

「……それ、に。昔、餓死しかけてから、肉が付き難い体質になったみたいで。食べては、います。成人男性よりは全然少ないかもですけど」

ふむん、と満足気に鼻息を吐き出し、明紫亜は俯いた。
重たい話になるのは嫌で、それでもいつかは告げるべきことなのだ。
抱き締めてくれる腕に力が籠もった気がする。
司破さん、と呼んだ名は不安に掠れてしまった。

「そうか。まあアレだ。体力使って食べるもん食って、筋トレをバキバキにしたらムキムキになるかも……しれねぇだろ。そんなメシア、見たくないがな。美味いもん作って食わせてやるよ」

むぎゅ、と両頬を大きな片手に挟まれ唇が尖る。
何も聞かれなかった。
寧ろ、筋肉ムキムキな少年を想像したのか、司破の言葉尻は笑っている。
ははっ、と笑い声を上げた司破が、さらり、と口にした何てことのない台詞に明紫亜の胸は一杯になってしまう。

「オムライス。また、司破さんの作ったオムライス、食べたい。僕、練習するから。そしたら、一緒に作って、くれますか? 僕のも、食べて欲しいです」

一度も明紫亜の為に食事を作ろうとはしてくれなかった母は、自分を嫌っていた。
明紫亜の中で、手作りの食事を作って貰うことは愛情表現そのものだった。
そして司破と出逢って、作ってあげたい、と思うようになった。
彼に齎される新しい感情は、ひどく優しくて息苦しい。
嬉しいのに恐ろしくて、怖いけれどもっと溺れてしまいたい。
誰にも抱いたことなどない感情を司破だけが明紫亜に与えてくれるのだ。

「落ち着いたらな。食えるもん作れよ?」

未だに笑いながら揶揄する司破の掌に頭を撫でられる。
自分から擦り寄るように頭を押し付けると、顎を掴まれ上向きにされてしまう。
司破の肩に後頭部を乗せる形で上目に見える司破は無表情だったが、雰囲気は柔らかい。
唇を軽く啄むだけの行為は恋人の戯れのようで明紫亜の心に幸せを置いていく。
途端に恐怖が勝り、眼前の男の唇に歯を立てた。

「どうしよう、司破さん。僕、幸せだ。司破さんのせいで幸せで爆ぜそうです。死んじゃいそう」

沸々と身の内から湧き上がる恐怖も、言い換えるならば司破に愛されている証拠なのかもしれない。
苦しくて堪らないのは、それが人を「愛する」と言うことだからなのかもしれない。
家族ではない人間が心に入り込んでいる。
明紫亜にとっては未知の領域である。
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