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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 102
しおりを挟む怒っているのか、泣きたいのか、どちらとも判断出来ない歪んだ表情を眺める。
自分が生きていることを赦せない。
愛される自分を赦せない。
だからこそ彼は、未来を夢想する時に自身の存在を排除する。
本当は甘えたくても我慢して平気な自分を演じてきたのだろう。
大好きな家族だと言いながら、自分から一線を引き、本音の部分に蓋をして生きてきたのだろう。
失った時の傷を最小限に抑える為の自己防衛なのは解っている。
それを幼い頃から自覚もなくせざるを得ない環境にいたのだ。
なんて馬鹿なキノコだ、と改めて思う。
「だけどね。司破さんが壊していくから。僕の思い描く未来には、司破さんがいて、僕も其処にいるんだ。幸せになりたいなんて思わないっていつでも自分を戒めてきたのに、司破さんと幸せになりたいんだ。必要以上に甘えないって決めてるのに、司破さんにはいつでも甘えたくなる。全部、ぜんぶ、ぜーんぶっ、司破さんが悪いんだからな。……ちゃ、ちゃんと、僕のこと、最期まで愛してくれなきゃ化けて出るよ。僕、決めたんだ。死ぬ時は司破さんの手で死のうって。司破さんが殺してくれるまで、僕は生きることを決めたんです。……お、重たくて、ごめんなさい」
本当に馬鹿で愚かなキノコだ、と笑いを止められない。
顔を隠そうとしてか司破の手から逃れようと身を捩る明紫亜を封じる為に、細い体躯に腕と脚を巻き付けた。
小さな身体で必死に『愛』を伝えてくる明紫亜は解っていない。
どれだけ司破が名も知らぬ少年に恋焦がれたか。
愛を知らない殺人鬼に『愛しさ』を教え込んだ張本人は何も知ろうとしない。
自分の『愛』は重たくて迷惑なものでしかない、とでも思っているのだろう。
明紫亜には司破の『愛』が必要なように、司破には明紫亜の『愛』が必要なのだ。
知ろうとしない少年を憎らしくも想い、反面、司破との未来に自分を投影していることに少しの進歩を感じた。
「ちゃんと殺してやるから安心して生きろ。俺が殺すまでは、何があっても死ぬなよ。最期の最期まで、傍にいて、嫌がっても愛して可愛がるからな。結婚もする。式を挙げたいなら挙げるし。子供が欲しいなら、里親になろう。……なあ、メシア。俺の方が重たいだろ? ずっとお前といたいんだ。死ぬ直前まで離したくない。覚悟しとけよ」
きっとこのキノコは、重たくない、などと告げたところで信じはしないのだ。
表面上は理解したように見せても、その実、奥深いところで咀嚼できずに悩んでしまう。
何となく明紫亜のことが解ってきた司破の中で導き出された答えが、同じだけのものを示すことだった。
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