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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 84*
しおりを挟む甘えたら不幸にしてしまう。
そんな気持ちを抱くようになったのはいつからだったか。
覚えてはいないが、物心ついた頃には既にその強迫概念は明紫亜の中にあった。
頭を引き剥がされ、ぼふん、と枕に埋まる。
目の前に映る司破は、表情などみせない癖に優しく明紫亜の頬を撫で擦る。
それだから、強面も柔らかく見えてしまうのだろう。
「メシア、……愛してる。大丈夫だ。いつもみたいに気持ちいいことだけ考えてろ。余計なことは考えなくていい」
「ん……、司破さ、ん。ごめ、なさい」
目と目が至近距離で合わさり、更に強く司破の存在を感じた。
頬を辿る手が耳の後ろから髪に差し込まれ、額同士がぶつかる。
唇が触れ合う瞬間、明紫亜の口を吐いて出たのは謝罪の言葉だった。
「謝るな。俺がお前を愛したいだけだ。メシアは何も悪くない」
「でもっ……! 僕のせいで、不幸に、なっちゃ、う、かも。僕が、司破さんを、愛し、ちゃ、っ、た、から……っ!」
常に体内を渦巻く不安が、初めて外にと出て行った。
自分のせいで大事な人が傷付いてしまうのではないかと、誰にも言えなかった恐怖が言葉になって形を得たのだ。
潤んだ瞳を閉ざす明紫亜の下唇に歯を立て司破は笑った。
「たとえ不幸になったとして、後悔はしないさ。自分で決めたことだ。幸せよりもメシアが欲しい。そう思うのは駄目か?」
「っっ、……だめ、っ、じゃ、な、い、っ! ぼ、くもっ、……司破さんが、欲しい、です」
ふるふると頭(かぶり)を振り、ゆっくりと目蓋を上げていくと、涙が溢れ落ちていく。
止めようとも思わなかった。
溢(あふ)れる水滴をそのままに司破に縋るようにしがみつく。
視線を合わせると何方からともなく唇を触れ合わせた。
「ん、ンン、っ、んぁ、ぁ、っ」
口唇の狭間を舌先になぞられて薄っすらと開くと、ぬるり、と司破の舌が入り込んで来る。
ちろちろ、と舌先を擽られ思わず顔が上がり顎が上向いた。
「ふ、っ、ハッ、ぁ、あ」
捕えられた舌先を噛まれ、僅かな痛みに眉を寄せたところでキツく吸い上げられる。
触れられてもいないのに、体中が疼いた。
腰の辺りから、じんわり、ともどかしさが拡がっていく。
もっと直接的な刺激が欲しい、と無意識に身体を司破にと擦り付けていた。
「どうして欲しい?」
貪られていた唇が解放され、静かに問い掛けられる。
意味を理解した途端、ぶわあっ、と顔が熱くなった。
自分で強請(ねだ)ることを求められているのだ。
上から見下ろしてくる漆黒の瞳に囚われて息が止まる。
「な、なめ、て……ほし、い」
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