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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 71
しおりを挟むにんまりと笑う杉木は、司破に明確な返答を返すことなく持論を述べ、胸倉を掴む司破の手首に手を掛けた。
司破が手を放すと杉木は勝ち誇った顔で数歩後退る。
「メシアは俺の、片割れ、だ。俺とメシアを繋ぐ罪は一生消えることなんてない」
杉木は口角を上げたまま後ろ足で扉に近付いて行く。
狂気すら感じる笑い声を上げた杉木の首が横に傾いた。
「なあ、笹垣。メシアは愛されることを恐れるだろ? 何故なのか、アンタに解るか? 俺とメシアは、母から幸せを奪って生まれてきた。母から愛しい人を奪って宿った生命だ。遺伝子に刻まれているんだよ。幸せになってはいけない、とな。誰からも愛される資格はない、と遺伝子が愛を拒む。だけど、俺だけは例外だ。メシアは俺の愛を無条件で受け入れる。俺に愛して欲しくて堪らなくなる。それは母を求める赤子のように強い欲求だ。今はアンタに夢中かもしれない。それでも最終的には俺のところに戻ってくる運命なんだ。これは宿命なんだよ」
杉木は自分の言い分だけを言い放ち、司破が何か言葉を口にする前に、部屋から出て行った。
溜息が体内から外に出て行き、司破は自分のデスクに腰掛ける。
彼の意味の解らない主張が、異母兄が自分に示すものにも似ていて、余計に疲労感に襲われている。
スマホを手に取ると、画面にマッシュルームがいた。
先程、司破が送ったメッセージへの返答だった。
軽く笑みが溢(こぼ)れる。
自然と口端が上がっていく感覚に、司破は戸惑いを覚えた。
明紫亜に出逢ってから、司破は笑うようになった。
ぎこちないものではあるが、それでも笑みを刻んでいるのだ。
それが嫌ではないから、また司破を戸惑わせる。
あのキノコの前で笑わないなど無理なことだと思えてしまう。
生きるのに必死になっている明紫亜の姿は、何にも感じることのなかった司破の心に何かを齎した。
結果として、変なキノコのことが愛しくて堪らなくなっているのだ。
愛とは何かも知らない司破が、ただ彼を愛したいと想ってしまうのは、滑稽なことなのかもしれない。
杉木の言う通り、明紫亜にとってそれは受け入れ難いものなのかもしれない。
それであれ、明紫亜は恐れながらでも少しづつ司破の愛を受け入れようとしてくれているのは確かだった。
恐らくは、杉木の言うことに間違いはないのだろう。
たとえ異常に思える思考であれ、明紫亜も似たようなことを言っていた節があることを考えるならば、彼等は目に見えない深い何かで繋がっている。
羨ましい、とは思えなかった。
ただ切なさだけがある。
彼等にとって、愛とは何であるのか。
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