165 / 242
一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 70
しおりを挟む明紫亜にとって、確かに叔母の存在は大きいのだろう。
けれど、杉木は知らないのだ。
明紫亜は今、一人で立とうとしている。
叔母と言う繭から飛び出そうとしている。
自分の足で立ち、自分の手で触れ、自分の目で見て、自分と向き合おうとしている。
そして叔母も恐らくはそれを求めているのだ。
杉木は明紫亜の気持ちを知ろうとしていない。
そう思うと自然と笑みが溢(こぼ)れたのだ。
「確かに、あいつにとって叔母は神にも近いのだろうな。確かに、俺にはあいつを愛する資格などないのかもしれん。守りきる自信もない情けない男だ。だがな、そんなことはどうでも良いんだよ。周りのゴタゴタなんざ知るか。俺は必要なものを手放すつもりはないし、あいつにだって手放させるつもりは毛頭ない。叔母が反対するなら認めさせるまでの話だろ。長兄のことは父に頭を下げてでもどうにかする。現象なんざどうとでもなる。大事なのは俺とメシアの気持ちだ。あいつは俺と結婚したいと言っているから、俺はそう出来るように環境を整えていくだけだ。外野は黙ってろ」
ぎろり、と眉間に皺を寄せ眼光を鋭くすれば、杉木は一瞬怯んで息を呑んだ。
悔しそうに唇を噛み締めた彼は首を左右させ天井を仰ぐ。
「結婚? そんなの、許す訳ないだろ。笹垣、アンタにメシアの何が解るんだよ? メシアを理解出来るのは俺だけで、俺を理解出来るのもメシアだけだ。メシアを救えるのは、俺だけなんだよ!」
上を向いたまま左胸を押さえる杉木は、まるで自分の台詞に縋っているようだった。
彼を見ていると痛々しさだけが胸に拡がっていく。
「理解が一体何の役に立つ? 理解なんてものは所詮まやかしだ。大切なのは理解することじゃない。解ろうと歩み寄る行為そのものだろ。勘違いするな。人間は自分のことすら理解出来ない。そうやって狭い世界に閉じ籠るのはお前の勝手だがな、メシアを巻き込むな。理解出来るのが自分だけだと豪語するなら、メシアを狭い世界に閉じ込めようとするな」
立ち上がる司破を目で追う杉木の胸倉を掴み顔を近付けた。
彼は司破から目を逸らし、ぽつり、と言い訳をするように呟く。
「それでも。アンタがどんなに足掻いたって、メシアは俺のものだよ。俺の片割れだ」
「片割れ? どういう意味だ?」
生気の感じられない瞳が司破を捉えた。
杉木の唇が上向いていく。
「メシアは俺に逆らえない。俺もメシアに逆らえない。互いに縛り合う関係だ。狭い世界で何が悪い? 俺が欲しいのは、二人だけの世界だよ。誰にも邪魔されずに、ずっとずっとメシアといられる世界だ」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる