あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 70

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明紫亜にとって、確かに叔母の存在は大きいのだろう。
けれど、杉木は知らないのだ。
明紫亜は今、一人で立とうとしている。
叔母と言う繭から飛び出そうとしている。
自分の足で立ち、自分の手で触れ、自分の目で見て、自分と向き合おうとしている。
そして叔母も恐らくはそれを求めているのだ。
杉木は明紫亜の気持ちを知ろうとしていない。
そう思うと自然と笑みが溢(こぼ)れたのだ。

「確かに、あいつにとって叔母は神にも近いのだろうな。確かに、俺にはあいつを愛する資格などないのかもしれん。守りきる自信もない情けない男だ。だがな、そんなことはどうでも良いんだよ。周りのゴタゴタなんざ知るか。俺は必要なものを手放すつもりはないし、あいつにだって手放させるつもりは毛頭ない。叔母が反対するなら認めさせるまでの話だろ。長兄のことは父に頭を下げてでもどうにかする。現象なんざどうとでもなる。大事なのは俺とメシアの気持ちだ。あいつは俺と結婚したいと言っているから、俺はそう出来るように環境を整えていくだけだ。外野は黙ってろ」

ぎろり、と眉間に皺を寄せ眼光を鋭くすれば、杉木は一瞬怯んで息を呑んだ。
悔しそうに唇を噛み締めた彼は首を左右させ天井を仰ぐ。

「結婚? そんなの、許す訳ないだろ。笹垣、アンタにメシアの何が解るんだよ? メシアを理解出来るのは俺だけで、俺を理解出来るのもメシアだけだ。メシアを救えるのは、俺だけなんだよ!」

上を向いたまま左胸を押さえる杉木は、まるで自分の台詞に縋っているようだった。
彼を見ていると痛々しさだけが胸に拡がっていく。

「理解が一体何の役に立つ? 理解なんてものは所詮まやかしだ。大切なのは理解することじゃない。解ろうと歩み寄る行為そのものだろ。勘違いするな。人間は自分のことすら理解出来ない。そうやって狭い世界に閉じ籠るのはお前の勝手だがな、メシアを巻き込むな。理解出来るのが自分だけだと豪語するなら、メシアを狭い世界に閉じ込めようとするな」

立ち上がる司破を目で追う杉木の胸倉を掴み顔を近付けた。
彼は司破から目を逸らし、ぽつり、と言い訳をするように呟く。

「それでも。アンタがどんなに足掻いたって、メシアは俺のものだよ。俺の片割れだ」
「片割れ? どういう意味だ?」

生気の感じられない瞳が司破を捉えた。
杉木の唇が上向いていく。

「メシアは俺に逆らえない。俺もメシアに逆らえない。互いに縛り合う関係だ。狭い世界で何が悪い? 俺が欲しいのは、二人だけの世界だよ。誰にも邪魔されずに、ずっとずっとメシアといられる世界だ」
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